「あぁ…減ってしまった。」

 

sulky

 

預金残高とにらめっこしていると、メールが入った。Lだ。
−私の家に来てください−
こんな時間に呼び出すなんて珍しい。
は通帳を鞄にしまうと、切符を改札機に通した。

玄関先でいつものように監視カメラとご挨拶…とはいかなかった。
生身のものが遮っていたからだ。

「こんにちは、さん。」
「きっ、気持ち悪いなぁ…今日は部屋に引きこもらなくていいの?」
「偶にはやってみたくなっただけです。」

中に入ると、今日はやけに甘い香りが漂っていた。どうせお菓子を補充した後だろう。
Lの仕事机はいつも書類で埋まっている。数々の事件ファイルがところ狭しと敷き詰められているのだ。
その中に1日限定で置かれているものがあった。ケーキだ。

「何これ。ウェディングケーキみたいだけど…」
「今日はさんの二十歳のお誕生日ですから、ワタリに頼んで20段にしてもらいました。」
「普通は蝋燭でしょ!」
「気に入りませんか?」
「え、いや…」

どうせなら食べられるものの方が…と内心思った。
だがLは私の為に用意してくれたんだ。少しでも気持ちを汲み取って…
1人で葛藤していると、Lが顔を覗き込んできた。Lの表情に変化はない。
しかし、長い間付き合っているとわかる。今のは間違いなくしょんぼりしたときの顔だ。

「ではさん、こちらの部屋に来てください。見せたいものがあります。」

書斎に隣接する部屋の前で開けてみてください、とLは言った。
非常識なケーキを見た後だ。何がきても驚かないぞ!と両手で勢いよく扉を押しのけてやった。
電気が一瞬でつき、反射的に瞬きをしたら視界が180度変わった。
部屋は一面、折り紙のリースで彩られており、手書きの看板にはおめでとうございますがデカデカと書かれていた。
いつも見かける『つまみスタイル』でリースを貼り付けていったり、看板を作っていたのだと想像すると、自然と笑いがこみ上げてきた。
部屋の中で何よりも衝撃的だったものは…

「以前、パソコンが欲しいと言ってましたよね。周辺機器も揃えておきましたよ。」
「あー…」

は俯いた。その姿を見てLは覗き込んでみた。

(な、泣いてます!)
「L…あのさ…」
「なんですか?」

妙にソワソワしながら返答を待たれると、言いにくいことこの上ない。
しかし、これは言わなくてはならないことなんだ!

「…昨日、パソコン買ったばっかりなんだ。」
「!」
「バイトでお金貯めて、自分の誕生日祝いに…」
「私のプレゼントは気に入らないということですね。」
「そういうわけじゃ…私はLがいるだけで充分だからさ、ね?」
「気を使わなくていいですよ。」

しまった。Lがすっかり拗ねてしまった。
こんなことになるなら自分で買うんじゃなかった!なんと勿体ない…いや、なんという事態!何か手はないものか?

「そうだ!L、目瞑って。」
「なにをする気ですか?」
「いいからいいから。」

Lが目を閉じたのを確認すると、は一呼吸おいてカウントダウンを始めた。
3...2...1!

「…っさん!」
「機嫌直った?」
さんはいつも私が思いつかないことをしてくれますね。」

ほっぺたを触ってはいるものの、Lの表情に変化はない。
でも今度は少し嬉しそうに笑った。

 

−Fin−

 

(2009/04/07)