あそこに見える人影が愛おしくてたまらない

 

subject

 

「仁王君、これを。」
「ん?なんじゃ柳生。ティッシュなんかいらんぜよ。」
「鼻血が出ています。」
「鼻血なんか出て…うぉっ!」
「珍しいですね。」
「暑くてのぼせただけやき。」
「今日はそれほど気温は上がってませんが…」

仁王は上を向いたまま黙りこくった。
出血の理由なら気づいている。気づいているからこそ誰にも気づかれたくない。
心配そうにしていると、柳生はフェンスの向こう側に人影を見つけた。

「おや?さんじゃないですか。」
「今月の予定表を配りにきたの。あと、今週の練習メニューも。まずこれが柳生の分。」
「ありがとうございます。」
「で、こっちが仁王の…え、どうしたの、鼻血!?」
「んー…」
「珍しいこともあるもんだね。雨降るんじゃない?」
「柳生、ティッシュ足らんぜよ。」
「はい。それにしても、なかなか止まりませんね。」
「私他の人にも配ってくるわ。お大事にー!」
「おー…」

後ろ姿のなんて愛らしいことか。
ついていきたいのぅ。ついていったらどうなるかの。血がなくなって、倒れるじゃろなー。
上を向きつつ、視線はしっかりの方に注がれる。
ボーっとした感情が仁王の思考を鈍らせていた。

「のぉ、柳生。」
「はい?」
「いや、なんでもなか。もう鼻血止まったナリ。」

 

−Fin−

 

(2010/02/11)