あそこに見える人影が愛おしくてたまらない

 

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ここからだと、何をしてるか一目瞭然で、どこをみているか、誰と話しているか、そんなのもわかっちゃう。
この窓辺からひっそりと眺めているのが今の幸せ。
だれにも邪魔されない、自分だけのおすすめスポット。
彼に見つかったことは一度もない。それが、唯一の救い。
今日の不二くんはいつもと様子が少し違う。一人で、この窓から見える位置に座ってる。
深刻そうな顔で遠くを見つめてる。隠れたままじゃよく見えない。
少しだけ身を乗り出して、不二くんの様子をうかがってみることにした。

あ…目が合った。

不二くんはちょっと驚いた表情で、でも柔らかい笑みを浮かべていた。
私は今更隠れても意味がないから苦笑いで切り返す。
片手でひょいひょいと、何か仕草をしてきた。手招き?
口元で何か言ってる。なんだろう。「さん」かな。もしかして「さん」って言ってる?

「私?」

人差し指で自分を指した。うなづいてる!
よく分からないまま、私は階下へ走り出した。もしかすると、ずっと前からバレてたのかな?
私が窓から見ていたのを。

 

−Fin−

 

(2010/02/11)

8周年記念。同じく1位の仁王とタイトル・最初の文揃えてみました。