空は青く、雲が地の底から沸き上がっている。
手牵手
ほら。
優しい彼の表情。目の前に差し出された右手をとると、思いきり引き寄せられた。
少し汗ばんだ二人の間の空気が季節を感じさせた。
いつの間にか蔵ノ介の腕の中に収まっている自分に気づいて拍動が早まっていく。
「堪忍な。ちょっとの間、こうしててもええか?」
「…嫌がると思ってた?」
「あー…暑いから、少しだけ。」
*
自転車で帰り道を走っていた蔵ノ介は同じく帰路につくを呼び止めた。
部活はないのか問われたが、お笑いライブの自主練日で、とでも言って誤魔化しておこう。
日差しは強いが風が心地よく吹いている。
「なんの用?」
「と少し話したいことがあってな。」
「お笑いのコンビは組まへんで。」
「そういう相談とちゃうんや。俺はな…」
コホンと咳払いをひとつ。蔵ノ介の目はまっすぐにを見つめている。
いつもとは違う改まった雰囲気に、いてもたってもいられなくなって座り込んでしまった。
それでも蔵ノ介は続けた。
「に、俺の彼女になってほしいんや。」
「…聞いてへん、聞いてへん。」
「いやいや、そこは聞いてな。俺は真剣やから。で、どうなん?」
「やっぱりコンビの話だったやん。」
「俺じゃアカン…か?」
眉尻を下げながらを見つめる目は愁いを帯びている。
声は少しばかり震えており、心情が見てとれた。
「ええよ。」
「ホンマか!?」
「嘘ついてどないするん。」
「嬉しいわ〜。アカンかと思った。」
ほら、と伸ばされた右手。が意識した頃には蔵ノ介の顔は見えない位置にあった。
吸い込んだ空気が彼の気を纏っている。早まる鼓動を自覚しながら、深く呼吸した。
−Fin−
(2018/05/24)