「なぁ、白石のどこがいいん?」

 

品定め

 

謙也は頬杖をつきながらそう問いかけた。

「少なくとも、謙也よりは。」
「どういうこっちゃ。」
「たとえば――」

テニスボールの軽快な音が響く。もう一本、と話題の人物の声がした。
石田との試合は4-2と白石がリードした状態だ。お互いサービスをキープしていた。

「将来有望?」
「打算的か!薬剤師の男ってどうなんや…?そんなにええか?」
「毒盛られたら死んじゃうね。」
「ほら、俺の方がええやろ?ウチ、医者の家系やし?」
「スピードにこだわって早死にしたくはない。」

おもろないなぁ、謙也はスポーツドリンクを飲み始めた。
日差しがベンチに差し込んでくる。は帽子を被り直すと、流れ出る汗を拭った。
ラケットを使ってストレッチを始めた謙也を横目に、試合の行方を見つけていた。
石田のサービスゲーム。スコアは40-30。このゲームをとれば白石に勝機が見える。

「蔵之介、ファイトー!」

黄色い声をかけられた白石はラケットを振り、背中越しに応えた。
それを見た謙也が声をあげた。

「白石がカッコつけとる〜」
「カッコつけてへんわ!」
「油断は禁物やで、部長。」

瞬間、石田のバックハンドがラインぎりぎりに突き刺さった。

Deuce...

日常の漫才を淡々とした表情で見つめていた財前審判のコールがコートに響いていた。

 

−Fin−

 

(2016/07/14)