「なんじゃ、今日も来とったんか。」

 

指し示したその先

 

今は学園祭準備の真っ最中。準備することが多く、夜遅くに帰ってくる。
今日も玄関にはがちょこんと座っていた。

「来ちゃ悪い?この時間までずっと待ってたんだからね。」
「押しかけ女房やの。」
「同棲の方がいいんですけど。」
「夏休みの間はずっとここにおる気か?」
「うん。」

親が家にいたら少しは気を遣うが、生憎、仁王家は両方ともめったに帰ってこない。
姉も彼氏の元にいるし、弟は黙認。家は雅治が独り占め。
だからが住み着いてしまったのだ。

「ねー、まさはる。チューしてってばぁー。まーさーはーるぅー。」
「しょうがないのぉ。好きなだけしちゃるぜよ。」

夜になるとテンションがおかしくなる、という人もいるけれど、二人でいるときは常におかしい。
人目につかない場所ならは雅治にベッタリくっついて離れない。
部屋でテレビのチャンネルを変えているとがテレビ画面を指さした。妙なCMが流れていた。

「な、なにこれ…」
「学園祭にCMは必要ないじゃろ…」
「あ、跡部…様」
「…は?」

CMが終わった後、は雅治にくっつき直そうとした。
ところが雅治はサッとよけて離れた。

、今何か言わんかったかの。」
「何も言ってないけど。」
「”跡部様”って聞こえたんじゃけど?お前さん、もしかしてあの喫茶店に跡部狙いで並ぼうと思っとるんか?」
「うっ…」
「彼氏のいる前でようそんなことが言えるの。跡部のどこがいいんぜよ、俺じゃ物足りんか?」
「…じゃぁ逆に聞くけどさ、雅治は私よりあの子の方がいいの?」

虚を突かれた雅治は目を丸くした。あの子って誰だ?思い当たることがない。

「なんの話じゃ。」
「こないだ赤也君から聞いたんだよ、女の子とライブ行ってたって。なら、私も他の人好きになろうとしたっていいじゃない。隠すくらいなら、別れても…「それくらいにしときんしゃい。」」

はぁ。雅治はひとつため息をついた。

「情報は正確に掴まんといかんぜよ。」
「どういうこと?」
「ライブに行ったのは本当じゃ。運営委員の子での、模擬店の景品の意見を聞きたくて誘っただけナリ。」
「どこにライブに行く必要がある?」
「あのバンドはそれなりにカッコイイから、お前さんが目移りしないようにと思ったが…どうも裏目に出たみたいやの。」
「そうなんだ…」
「まぁ、悪いことした。今度好きなところへ連れていっちゃる。」
「そう?それじゃぁ…」



「わー、このケーキおいしそう。雅治、私これがいいなぁ。」
「なんでここなんぜよ?」
「どこでもいいって言ったじゃん。」
「…、待ちんしゃい。このケーキの値段ケタ違い『お待たせしましたお嬢さん』…」
「わー!跡部さm…さんカッコイイ!」
『ありがとうございます。』

ウェイターはニヤリと微笑んだ。仁王に目を合わせながら。

(あぁ…なんでこうなるんじゃ…!)

 

−Fin−

 

(2008/11/23)