「お、ちょうどエエところに!」
坂道の上
声がした。辺りを見回すが、声の主は見当たらない。一体どこから?
風が吹いてくる方を見上げると、手を振っている彼がいた。
「気づいた気づいた!」
「そんなとこで何してるん?」
「迎えにいこうと思ってたとこや。」
…その格好で?
どう見ても寝間着。早起きできなかったのに、それどころか遅刻しているのに急いでやってきたといったところか。
スピードスターはどの辺りが基準なのか疑問が浮上してきた。
間に合ったことに高揚感を持ちながら、寝間着は坂道の上から猛スピードで駆け下りてきた。
風に吹かれて余白がヒラヒラとはためく。足元をよく見たら私のピンク色のつっかけサンダルだ。何してくれているんだ。
「あ、あかん!止まられへん!」
「ちょっと、謙也!?」
勢いのついた長身は思いきりに体当たりして転がった。
アスファルトが刺さる気がした。しかし、実際には触れていなかった。身体の下に謙也がいた。
「はは、すまんすまん。」
「危ないからスピード落として!」
「No speed,no lifeや。」
はため息をつくと、起き上がって手を伸ばした。
「帰るで。」
「着替えんとあかんしな。はよ帰ろう!」
謙也は手を掴むと、そのまま起き上がり坂道を走り出した。繋いだ手は離さずに。
−Fin−
(2018/05/31)