「柳さん家の蓮二くん!聞いてますかー!」

 

piggy bank

 

それまで涼しい顔をしながら本を読んでいた蓮二がようやく動きを止めた。
花柄のしおりを挟むと、ひとつため息をついてこちらの様子を伺っている。

「今日は何の日か分かってるでしょ?」

蓮二は近づいてきて、鼻先同士が少し触れた。不意打ちだったからか、胸が一度飛び跳ねた。
ズームアップされた襟の部分から鎖骨がチラッと見えて鼓動が更に早まる。
も、もしかしてプレゼントはこれから…!?
彼の表情を読み取れない焦りと未来への期待で身体がフリーズしそう。

「生憎、お前の欲しいものが割り出せなくてな。何も用意できていない。」
「何でもいいって言ったじゃん。」
「そうはいかないだろう。の喜ぶ顔が見たいからな。だから…」
「だから?」

次のことばが出るまでの刹那、頭の中であれやこれやの準備が整っているか総合検索が始まった。
歯磨きはした?今日の下着は何色だっけ?家には誰もいないよね?
クイック検索は終了して、後は殿方を待つだけ…さぁ、来い!

「今から出かけないか?」

ゴチンッ

期待させるなよバカ蓮二!
額同士を思い切りぶつけて、期待はずれのこの気持ちを直に伝えた(つもり)。
せっかく2人きりなんだから、もっと楽しいことしようよ!
返して、私の思いこみの時間を返して!

「今のは予想していなかったな…行かないのか?」
「…行く。」
「では、駅まで出よう。」

それでも、彼の言うことなら逆らえない。
蓮二は机の上にあったあるものを手に取った。
そして引き出しの中から金槌を取り出して右手に持った。左手にはピンク色のブタ。
ジャリ、と音がしていかにもたくさん入ってそう…じゃなくて、割っちゃうの?

「ブタさん壊しちゃうんだ。」
「今日のために去年から貯めておいたんだ。問題ないだろう。」
「え、そうなの?」
「来年用に、また買えばいい。」

来年も一緒、という言葉が密かに隠されているような気がして、きまりが悪い。
いつもみたく強気で立っていられない。まるで、今の貯金箱だ。

、どうした?早く行くぞ。」

 

−Fin−

 

(2009/09/19)