「おはようございます!」

 

ピクニッカー

 

声がした。うっすら目を開けると、髪の長い人影がぼんやりと見えた。
枕元に置いていた眼鏡をかけて、人を再確認する。あぁ、か。
納得した俺は安心したように一息つこうとしたが、今の状況に違和感を覚えた。

「なっ!?」
「ふふっ、ビックリしました?」
「ど、どうして俺の部屋に…」
「寝ぼすけさんですね。約束忘れてません?」
「約束…」

壁に掛けてあるカレンダーに目をやると、計算式に邪魔されながらも赤ペンで丸を付けている日付を発見した。
よく見てみると、今日じゃないか…あっ。

「ピクニックに行くと言っていたな。」
「そうですよ〜。また夜遅くまでデータまとめてましたね?」
「すまない。」
「もうお昼近くになっちゃいましたし、今日は別のところに行きましょう!」

やけににこやかな表情でこちらの様子を伺ってくる。
断る理由もない。俺は快諾するとすぐに支度をした。



作ってしまったピクニック用のお弁当を引っ提げて、は自宅へ戻ってきた。
の母は驚いた表情で出迎えたが、後ろに俺がいるのを見つけると安心したようだ。
言われるとおり庭へ連れて行かれると、レジャーシートを広げ始めた。

「まさか、ここで食べるのか?」
「え、嫌ですか?」
「別に嫌ではないが…」
「貞治先輩も手伝ってください。はい、これ、準備してくださいね。」

レジャーシートを広げるまで気がつかなかったが、庭は周りが綺麗に手入れされており、
ちょうど中央に座ると辺り一面が花畑のように見える。
閑散としているわけでもなく、鬱蒼としているわけでもない。
最初からここでピクニックをするつもりだったのだろうか。
以前好きだと言っていたのロケアの花が特等席の一番前で綺麗に咲き誇っている。

「貞治先輩、準備できたんでカゴ開けてもいいですよ。」
「あぁ、わかった。サンドイッチか。が作ったのか?」
「はい!定番ですけどね。寝てる先輩を見てたら、晩ご飯になるかと思いました。」
「流石にそこまで寝坊はしないさ。」
「ホントですか〜?」

冗談交じりに笑った口元に、サンドイッチの苺ジャムがついていた。
指で掬いとって舐めてしまうと、は「あっ」と声をあげた。
それまで笑っていた口が急速に小さくなり、明後日の方を向いてしまった。
暫くの間、黙々と食べ続けた彼女の頬は撫子色に染まっていた。

 

−Fin−

 

(2013/08/13)