行進しながら出て行きます。
Parting
張りつめた空気が漂っている。こんな空気、味わいたくはない。なぜならば…
「残念、ですね。」
そういう柳生は、どこか寂しそうだった。
「転校、ですか。」
「そうなんだ。離れちゃうね。比呂士。」
「…一度、言いたかったことがあるんです。」
「ん?何?」
すると柳生は咳払いをして一言こういった。
「好きです。さん。」
「ふ、ふはは。何を今更言い直してるの。私達今付き合っ…【あなたが!】」
柳生は真剣な顔をして言った。
「あなたが、とても遠くへ…手の届かないところへ行ってしまう前に、もう一度それだけを言いたくて。」
言葉にできない涙が、一粒、また一粒と流れ落ちていた。
別れなんて、実感していなかったのに。
ふと手渡されたバレンタインデーのお返しと手紙が、今ではとても懐かしく思えた。
*
【さんへ】
手書きで残されていた手紙の内容を、まだ見ていない。
卒業してから、と言われているからだ。封を切るのは、まだ怖い。
「さん…?」
振り向くと、彼がいた。
「比呂士…。」
「もうすぐ、ですね。時間。」
「…・離れない?」
「えぇ。」
「ずっと遠くにいても?」
「さんが変わらなければ、いつまでも。」
また泣きかけた私を、比呂士は抱きしめてくれた。その優しさが心に染みた。
最後の帰り道、家の方向が違うのでいつも別れる場所で、最後の挨拶をした。
いままでで一番長い時だった。ふと、振り向いてみた。
もう見えなくなった彼の背中をずっと見ていた。
*
家に帰ってから、何もする事がなかった。気がつくと上の空だった。
一息ついてから手紙を見よう、と思っていたらもう夕方だった。
流石にそろそろ見なくては、と思い封を切った。
【さんへ
もう卒業ですね。
今までずっと実感が湧かなかったのですが、あなたがいない生活は、はっきり言って寂しいです。
どんなに些細なことでも、忘れることはできません。
こうやって、面と向かっていうのは恥ずかしいけれど、言葉にできない思いは沢山あります。
好き?
なんて一言も言えませんでしたが、本当は言いたかったです。ちょっとした後悔でしょうか。でもさんは
好きだよ。
と、何度も言ってくれました。それだけが今の自分の支えです。
柳生比呂士】
「比呂士、こんな手紙まで堅いんだから…」
少し涙ぐんでしまった。
それからは、定期的に手紙を送ったりしている。
それでも、時たま思う。
「今、なに考えてるのかな?」
−Fin−
(2012/10/08)