行進しながら出て行きます。

 

Parting

 

張りつめた空気が漂っている。こんな空気、味わいたくはない。なぜならば…

「残念、ですね。」

そういう柳生は、どこか寂しそうだった。

「転校、ですか。」
「そうなんだ。離れちゃうね。比呂士。」
「…一度、言いたかったことがあるんです。」
「ん?何?」

すると柳生は咳払いをして一言こういった。

「好きです。さん。」
「ふ、ふはは。何を今更言い直してるの。私達今付き合っ…【あなたが!】」

柳生は真剣な顔をして言った。

「あなたが、とても遠くへ…手の届かないところへ行ってしまう前に、もう一度それだけを言いたくて。」

言葉にできない涙が、一粒、また一粒と流れ落ちていた。
別れなんて、実感していなかったのに。
ふと手渡されたバレンタインデーのお返しと手紙が、今ではとても懐かしく思えた。



さんへ】

手書きで残されていた手紙の内容を、まだ見ていない。
卒業してから、と言われているからだ。封を切るのは、まだ怖い。

さん…?」

振り向くと、彼がいた。

「比呂士…。」
「もうすぐ、ですね。時間。」
「…・離れない?」
「えぇ。」
「ずっと遠くにいても?」
さんが変わらなければ、いつまでも。」

また泣きかけた私を、比呂士は抱きしめてくれた。その優しさが心に染みた。
最後の帰り道、家の方向が違うのでいつも別れる場所で、最後の挨拶をした。
いままでで一番長い時だった。ふと、振り向いてみた。
もう見えなくなった彼の背中をずっと見ていた。



家に帰ってから、何もする事がなかった。気がつくと上の空だった。
一息ついてから手紙を見よう、と思っていたらもう夕方だった。
流石にそろそろ見なくては、と思い封を切った。

さんへ
もう卒業ですね。
今までずっと実感が湧かなかったのですが、あなたがいない生活は、はっきり言って寂しいです。
どんなに些細なことでも、忘れることはできません。
こうやって、面と向かっていうのは恥ずかしいけれど、言葉にできない思いは沢山あります。
好き?
なんて一言も言えませんでしたが、本当は言いたかったです。ちょっとした後悔でしょうか。でもさんは
好きだよ。
と、何度も言ってくれました。それだけが今の自分の支えです。
柳生比呂士】

「比呂士、こんな手紙まで堅いんだから…」

少し涙ぐんでしまった。
それからは、定期的に手紙を送ったりしている。
それでも、時たま思う。

「今、なに考えてるのかな?」

 

−Fin−

 

(2012/10/08)