額に汗が滲んできた。

 

Ordinary day

 

残暑の厳しい中、鮮度の落ちないように魚を手早く店内へ運んでいく。

「悪いね。今日も手伝わせて…」
「平気、平気。おかげで腕力ついたし。」

は少したくましくなった腕に力を入れた。
先日の全国大会で、タカさんは名誉の大怪我をして帰ってきた。

―その身体じゃお店の手伝いできないね―

が寿司屋を手伝い始めたのはその日からだ。
理由を聞いても「筋肉をつけたい」の一点張り。

(女の子にはキツイと思うんだけどなぁ…)

筋トレなら他にも方法があるのに、と考えていたらが寄ってきた。

「終わったよ。」
「ありがとう。仕入れ、大変じゃないかい?」
「ううん。困ってるときはお互い様だよ。この前、私が不良に絡まれたとき、ラケット振り回しながら助けてくれたじゃん。」
「ハハッ…あのときはたまたまラケット持ってたからね。」

タカさんは性格が豹変した自分の姿を思い出すと、あまりの恥ずかしさに頭に手をやった。

「…ねぇ、タカさん。ケガが治ったら、テニス教えてよ。筋力アップ記念に。」
「そうだね。早く治して、一緒に練習しようか。」

額から滲み出ていた汗が一筋になり、の頬を伝った。

 

−Fin−

 

(2011/04/20)