まるでお伽噺のワンシーンだ。
煮るなり焼くなり
黒板の色を戻し、桟を水拭きし終えたところだ。遠くの方からガヤガヤと声がする。
部活動と称した潮干狩りは六角中の恒例行事だ。今日も天気がいい。きっとバケツいっぱいに入った貝が口を開けるのを待っている。
教室の窓から下を覗くと、泥だらけになって帰ってきたメンバーが大量の貝類を手に部室の方へ向かっていた。
「サエさーん!」
泥だらけの中、一人涼しげに髪を靡かせている彼に手を振った。白い歯を光らせながら手を振り返してくる。
きっと彼はどんな格好をしていても無駄に男前を着こなしてしまうのだろう。
予想はしていたがあまりの刺激に心が踊った。ここまでは恒例行事だ。
「やぁ、当番中?」
「あと日誌書いて職員室に鍵を戻すだけ!」
「じゃぁ、終わったら一緒に食べるかい?」
佐伯はいたずら顔で手を口に添えた。
次に、投げキッスを2階の教室まで飛ばした。それは一瞬で女子のもとへ届いた。
「キャー!」
「おーい、手が邪魔で可愛いが見えないよ。」
「無理ー!」
窓の側でカーテンと一緒になってが悶えていた。
身体をくねらせながら悶えている。あまりのおかしさにしばらく眺めていられそうだ。
「サエさん部室行くよー」
「あぁ、俺は可愛いアサリちゃんを食べるから、みんな先に食べててくれるかな。」
外野からの声に形だけの返事をして、目の前の獲物に手を振った。が。
カーテンに完全に隠れてしまっていた。さて、俺の熊手で掘り返してあげないと。
「捕りたてが一番おいしいからね。」
−Fin−
(2020/08/14)