ネツの君

 

「英語テスト23点」
「…」
「赤点追試は明日だというのに」
「…ゲホッゲホッ」
「8度7分の熱ですか…」
「…ずみまぜん…」

体調を崩している時に、大好きな人が心配して来てくれてうれしい、なんて呑気なものじゃない。
そもそも本来の訪問の目的は、明日の英語の追試に向けて勉強を教えてもらうつもりでの約束だった。
それが今朝になって急に風邪をひき、急きょ『看病兼お見舞い』になってしまったのだから、もう…何というか…泣けてくる。

「健康管理がどうのという前に、。貴女はきちんと髪を乾かしてから寝るようにしなさいよ」
「な゛っ…!!永四郎さん、ひどいでずっ。ちゃーんと乾がしでますよ!?」
「ほぅ。あの悪いクセは直ったと。では何故風邪を?」
「…起きた時、布団から抜けてま゛しだ。イリュージョンです。」

「…馬鹿でも風邪をひくんですね」
「永四郎ざーん!!見捨てないで下さ゛い―!!」
「…大丈夫ですよ…。それにしても、こんな大事な時に体調を崩すなんてね」
「う゛…」
「分かってますか?追試クリアしないと今学期の英語は赤点ですよ」
「う゛ぅ゛…」
「まあどっちにしろ明日受けるのはもう不可能ですからね。熱が下がったら、その冷えた頭でよく勉強することです」
「…」
「予備日は一週間後との事なので、どこかでこの埋め合わせしますからね」
「…(鬼っ!!)」

もちろん、彼氏の機嫌を損ねたのは自分のせいだけど…。
言い過ぎじゃないですかね?永四郎さん…

「そろそろ俺は帰りますよ。いつまでも居ては、貴女も休めない」
「…うん」

機嫌は損ねているけれど、大好きな人が帰ってしまうと思うと寂しくて、無意識のうちに眉が八の字になる。

「あぁ、もう一つだけ言っておきたいことがあります」

(ま…まだ何かあるんですか〜!?)

「早く元気になってくださいね。。俺の――大切な人」

パタン

閉じた扉の向こうには、赤面したあの人が立っているかと思うともどかしくて。
追いかけようとしたけれど、熱で足がもつれたから諦めた。
早く元気になって、元気な姿で駆け寄りたいと思ったから。

 

−Fin−

 

(2008/01/19)