陽射しを浴びて背筋が伸びる。
夏のチカラ
ミンミンと耳をつんざく程の蝉の声が、午前中は辺り一面響き渡っていた。
それもそうだ、ここは普段生活している所より少し田舎。虫も多い。蜻蛉がよく挨拶してくる。
誰かさんが寝坊したおかげで、ここに来る頃には日はすっかり南中してしまい、照りつけが激しい。今にも焼け焦げそうだ。
自販機からキンキンに冷えた飲料を取り出し、半分ほど一気に飲み込んでから唐突に思った。
(リョーマくんは?)
辺りを見渡すが、黄色が眩しく照り返す向日葵畑は目に痛い。堪えながら姿を探すと、十数メートル先に見えた。リョーマの帽子だ。
こちらには気づいていなさそう。は急いで駆けつけた。隣の通路からそっと近づいて、両手で抱きしめた。獲物を捕らえる蟷螂のようだ。
「リョーマくん!」
の腕の中には大輪の向日葵が一輪。
リョーマの帽子が向日葵の頭からはらりと落ちた。は髪にまとわりついた花粉に思わずくしゃみが出た。
「、なにしてんの?」
呆れたような、面白い玩具を見つけたような顔でこちらを見つめる本物のリョーマがすぐ横にいた。
「やっ、これは…その…」
「ふーん、俺だと思ったんだ。これで。」
リョーマは黄色く染まった帽子を払い、自身の頭に被せた。
向日葵を抱いている自分が恥ずかしくなり、は勢いよく両手から離した。羞恥に体温がより一層上がっていく。これ以上熱くなったら煮え立ってしまいそうだ。
「見ないでよ、恥ずかしいから!」
「おわっ」
向日葵を抱えていた両手が今度はリョーマを確実に捕まえた。
こうしていれば真っ赤になった顔を見られなくて済むじゃない。
「あー、暑いなぁ。暑い、暑い。」
「じゃぁ離れろって…」
しょうがなくを抱き寄せたものの、髪についていた花粉が鼻を掠めた。
躍動する胸が面白くて、はより一層腕の力を込めた。リョーマはあつくて仕方がない。
の手から飲みかけの飲料を取り上げると、リョーマは一気に飲み干した。
−Fin−
(2020/08/14)