少しばかり気温の上がってきた晴れた日。
空に雲は多いが、まずまずといった天候だろうか。
起きてから幾分も時間の経っていない光は、まだ肌寒そうにジャージの袖を擦っていた。

 

水温む

 

「ユウく〜ん!」
「小春〜!」

早朝からテンションの高い掛け合いを見せられて、深いため息をついた。

「先輩ら、キモいっすわ。」

しんどい、と声を漏らす横に洗いたての白いタオルとドリンクが置かれた。

「こんな時間なのに、ホンマに元気やんねー。光もテンション上げたら?」
「俺、そういう役割ちゃうんで。先輩も知っての通り。」
「光があの二人みたいになったら槍が降るわ。さぁ、あの輪に入って練習行ってらっしゃい!」

背中をドンと強く押し出された光は前のめりになりながら立ち上がった。
先輩のあの笑顔は温かみを感じて、全くイヤな気はしない。
単純な先輩らとは違って、何を考えてるのか読めないところが年上ながら可愛らしい。



「可愛い…」
「心の声が表に出てるで、。」

注意してきたのは謙也だった。まずい、今日も考えていることがバレてしまった。

「バレバレやで。はよ言ったらええんとちゃうんか?俺がスピード解決したろか?」
「だ、ダメ!絶対光には言わんとって!」

周りからみれば一目でわかる矢印の方向にやきもきしている部員も多い。
そのうち誰かが光本人に言ってしまうのではないかとヒヤヒヤしているが、私は今のまま、現状維持を目指したい。
普段はツンとしているけど、夢中になれるものの話のときは本人でもわからない程度にテンションがあがっている。
光の密かなギャップを楽しんで、楽しくおしゃべりして…私はそれだけで十分嬉しい。

「はよ言うてしまいたいわ〜」
「マジでやめて?」
「わかっとる。わかっとるけど、見てたら耐えられへんからはよしてくれ。」
「なんで無関係な謙也が耐えれないの?意味わからんって!」
「俺やって、可愛いもん見てると耐えれへんのや。」

声がだんだん大きくなる。コートサイドで声を荒げてしまったことを後悔した。

「…先輩?」

騒ぎを聞きつけたコートから光が戻ってきた。

「ご、ごめん。うるさかったよね?静かに…」
「先輩、謙也さんと話するくらいなら、こっちで俺の球だししてもらえません?」
「わかった、すぐ行くね。」
「はー!俺は邪魔者かー!」
「この人と話する時間が無駄なんで、俺の側にいといてください。」
「無視かー!」

光が私の片袖を引っ張る力は強く、ベンチから引き剥がされてしまった。歩みが早い。
静かになった後ろを振り返ると、謙也がニヤついた表情でこちらを眺めている。

(…嵌められた!?)

気づくとテニスボールのカゴの前。目の前には寝起きだった顔がしっかりしてきた光の笑み。

「先輩、お願いします。」

 

−Fin−

 

(2018/02/27)