何を思って中学受験などしたのだろう。

 

またぐ

 

人見知りの激しい自分には、顔見知りの多い公立がお似合いだというのに。
受験の荒波に勝ち残った新入生の目は喜びに満ちているとともに、その目で早くもライバルを捉えているようにみえる。
満開の桜がお出迎えしてくれる中、こんなとこ来るんじゃなかった、と校門から一歩目で後悔した。

「…これで入学式を終わります。」

退屈な時間がやっと終わった。卒業式よりはマシだったけど。
教室に移動すると、初対面だというのにガヤガヤと騒がしかった。
いきなり『お友達』って呼べるとは。あなたたちは一体どういう神経してるの?

「なぁ、さっきから怖い顔しとるけど、どないしたん?」

外ハネ気味、脱色しているにもかかわらず質のよいの髪。そして爽やかな声。
どこか抜けているように見えたが、実はしっかりしていそうな印象を受けた。

「別に…なんでもないです。」
「君堅いわ〜。同い年やねんから、気ぃ楽にしてええで。…ひょっとして関東から来たん?全然訛ってへんけど。」
「先週、こっちに引っ越したばかりで…」
「大変やな〜。せっかく大阪来たんや。素のままおってかまへんで。」
「はぁ…」
「せや、君、名前なんて言うん?俺は白石蔵ノ介や。」
「私は、です。」
さんか。よろしゅうな。」

自己紹介を終えると、白石くんは私の頭をポンポンッと撫でた。
すると、今までの緊張が嘘のように解れていき、脱力感だけが残った。

「エラいふにゃふにゃになったなぁ。タコみたいになってんで。」

白石くんはニコッと笑って白い歯を見せた。人見知りがなおる、そんな気がした。

 

−Fin−

 

(2009/04/09)