「精ちゃーん。」

 

苦労する

 

「あ、…その持ってるものはなんだい?」
「退院祝い。精ちゃん用のはちまきと、タオルと手袋と…」
「あのー、なんで柄がハートとバラなのかな?」

幸村の顔は少々引きつっている。

「だって、柳と仁王がこの柄がいいって言ってたから。」

幸村の彼女は天然だ。いつもそうやってほかの部員にだまされる。
は自覚症状がなくて、だまされているとは思っていない。
だから幸村がその後始末をする。

「あ、あのね、僕はこういう柄よりも、もっとシンプルな方が…」
「たいへんだな、幸村。」
「苦労しとるのお。」

をだました本人たちがやってきた。二人とも笑いを堪えていた。

「どういうつもりだい?」

にはわからないが、幸村の黒いオーラが二人に牙をむいている。

「退院祝いぜよ。たまには笑いが必要なり。」
「いい加減止めてくれないかな。」
「どういうこと?精ちゃん。」
、ちょっとここで待っててね。」
「?」
「さぁ、お二人さん、ちょっとそこまでいこうか。」
「「…!」」

抱かした二人には、「そこまで」は「地獄まで」に聞こえた気がした。




がしばらく待っていると、幸村と二人が帰ってきた。

「どうしたの?そのけが。」
「な、なんでもないぜよ。」
「そうだ。」
「あ、そう?…あ、私が精ちゃんにあげたはちまきとタオルと…」
、あのね、あの二人の言うことを聞いちゃいけないよ。僕が好きなのはこの柄じゃないから、それよりも僕はがいるだけでいいからね。」
「えー、でも何かプレゼントしたいなぁ。」
「キスしたらいいんぜよ。」

幸村は、また余計なことを、という目で仁王をみた。
二人は気まずくなって、その場から逃げ出した。幸村は油断していた。

「プレゼント。」

(これ以上、変なことを吹き込まれなければいいんだけど)

のプレゼントのキスに、幸村は惨敗した。

 

−Fin−

 

(2006/08/26)