一目見て、ただ美しいと思った。
個人領域
騒々しい教室の喧騒の中で、窓際に一人で座っている。
外を眺めているだけなのに、入り込む隙がまるでない。
彼はいったい何を見て、考えて、そしてなぜ微笑んでいるんだろう。
窓の外には木々と人のあまり通らない道しかない。
彼は窓を開けた。彼、席の近い私、そして教室を生暖かい風がふわっと包み込み、ドアの向こうへ吹き抜けていった。
私の左でぼんやりとしていたカーテンは風に跳びはねた。顔にダイレクトに当たり、視界が遮られた。
「うわっ」
次々入ってくる風に、カーテンはのたうちまわる。
必死になってもがいていると、横からクスクスと笑い声が聞こえた。
「ちょっと開けただけなのに。」
鬱陶しいカーテンを退けると、横に不二くんが立っていた。
「さんって、面白いね。」
「な、何?」
「さっきから僕のことずっと見てたようだけど?」
「…バレてたんだ。」
「うん。」
ニコニコしている彼の顔は楽しんでいるようだ。
「不二くん、何見てるのかなーって、気になってさ。」
「あぁ、雛をみていたんだよ。」
「雛?」
「ちょっと見えづらいけど、木の枝に巣があるだろ?」
不二くんは一本の木を指さした。巣から今にも飛び立ちそうな雛が羽をばたつかせている。
「あ、ホントだ、もうすぐ飛びそう!」
「もう少し見ていようよ。」
「うん。」
さっきまで彼を見ているだけだったはずなのに、いつの間にか一歩、彼の領域に入り込んでいることに気づいたのは、しばらくたってからだった。
−Fin−
(2009/11/09)