だから嫌だったんだ。あいつと仲良くなるのは。

 

これからも

 

1年のときから、毎日毎日餌付け。
おかげで私のお小遣いの4割はガム代に消えた。
私が休んだ次の日は少しだけへなっと元気がなかったり、あいつが休んだ日はお見舞いにガムを持ってこいと電話が入った日もあった。
でも、今日でそれも終わり。卒業式は少しずつ、確実に進んでいる。
涙を流す子、やせ我慢している子、泣いている子を支える子、平気な子。思いは人それぞれだ。
卒業証書の授与も無事に済み、退場するとそこには普段じゃ考えられない人の数。

「おーい、こっちこっち!」

よく聞き慣れた声がした。今日くらいついてこないでほしい。

「ガムは持ってないよ。」
「その話しに来たんじゃねぇーって。聞いたぜ。お前、高校は外国なんだろ?」
「あーぁ。知られたくなかったのになぁ。親の都合でね、アメリカに行くんだ。」

先日、進路調査のプリントが配られた。
ブン太には知られたくなかったから、ブン太がどこかに行っちゃうまで、『内部進学』と書いて、その後書き直した。
誰にも知られないままアメリカに行こうと思ってたのに。よりによってブン太…

「わ、私がアメリカに行ったら、私みたいに優しい、ガムくれる人いなくなるね。また、探しなよ。」
「…、泣いてる。」

笑っているつもりだった。しかし、頬を伝うものは少し温かく、その軌跡は熱を奪う。

「なんで俺に言わなかった…ガムなんてどうでもいいだろぃ。」
「言うと、ここにいたくなっちゃうかもしれないじゃん。」

立海にとどまると親に迷惑がかかるから、それはいけないとわかっている。
わかっているけれど、失いたくないものがここにはある。

「…住所。」
「え?」
「アメリカの、お前んちの住所教えろって。俺にガムをくれるのはじゃなきゃ駄目だ。だから、俺がお前んちまで行ってもらいに行くぜ。」
「ブン…太ぁ…」
「ほら、ガム食えよ。は元気が取り柄だろぃ?」

次に会うときまで、暫しの別れ。
中学最後のガムは、しょっぱいグリーンアップルの味がした。
思いは人それぞれ。

 

−Fin−

 

(2008/03/10)