同じクラスのが先日から様子がおかしいと感じたのは、どうやら自分だけではないようだ。
コイイロフェスタ
一部の間では誰かにフラれたんじゃないかという噂も立ち始めている。
クラスのムードメーカーが静まっているだけで不穏な空気が漂っていた。
この空気に一人落ち着かない人物がいた。真田だ。
今日一日だけでも、彼らしくない行動がいくつか見受けられた。
帽子を被ったまま教室内へ入ったり、筆記用具を何度も床に落としたり。
その様子を心配した柳生が仁王に相談を持ちかけた。
「こういった状況なんですが…一体真田君はどうしたんでしょうか。」
「ほーぅ。真田がなぁ。何やら面白そうなことになっとるの。」
「面白くないですよ、見ているこちらが不安になります。」
「アドバイスしちゃるか。真田、どこにおる?」
*
何を苛ついている?
力になりたい…だが、俺がどうこうできる問題ではないはずだ。
ここまで己の無力さを感じたことはないな。
彼女はもっと溌剌とした笑顔の持ち主だ。なにか、できることは…
「お、ここにおったか。探したなり。」
「何だ。」
「柳生が心配しとってな。」
「俺をか?」
首をかしげる真田を見て、仁王はククッと喉を鳴らした。本当に可笑しい奴だ。
こんなときだからこそ、からかい甲斐があるものだが、今日は止めておいてやろう。
「アピールしてみんしゃい。」
「誰にだ?」
「それはお前さんがようわかっとるはずじゃが?」
「むっ…」
「考えるだけじゃ解決せんのじゃろ。」
それだけ告げると、仁王は踵を返して自分の教室の方へ戻っていった。
俺が、にアピール…だと?本当に励ましになるのだろうか。しかし…
気持ちを落ち着けて考えようと瞼を閉じたとき、の笑っている面影が一瞬ちらついた。
真田の中で変革が起こった。
教室へ一目散に戻り、音を立てながら扉を勢いよく開いた。
「!来い!」
大声で名前を呼ばれて、肩をビクつかせたのはだけではなかった。
クラス中が二人に視線を向けていた。
「真田く…」
「早くしろ!」
何十人もの視線を浴びながら、は小走りに教室の外へ出て真田についていった。
校舎を出て、人気の少ないところで二人は立ち止まった。
自分がなぜ呼び出されてのか訳がわからないは苛立ちを覚えていた。
「ねぇ、すごい恥ずかしかったんだけど。」
「いつまで…」
ぼそりと告げた一言から、塞き止められていたものが一気に溢れ出すように、次々と真田の口から言葉が飛び出した。
「いつまで悩んでいるつもりだ!そうやって嘆いていても何も変わらないぞ。くだらんことでクヨクヨして時間を浪費するな!もっと前を向かんか!」
「…っといてよ。」
「聞いているのか!」
「ほっといてよ!人の気も知らないで。何がわかるっていうの?」
「俺が分かるわけないだろう!」
「じゃぁ、なんで…」
普段の彼女の口からは出てこないような強めの口調が響いた。
言葉を無くした声色が少し濡れているのが真田にも分かった。
後ろを向いてその場に座り込んだまま、一切押し黙ってしまった。この沈黙を破れる者はいないだろう。
真田は自身の震える手をの頭に乗せ、軽く撫でた後、何も言わずにその場から立ち去っていった。
(え、これって…?)
−Fin−
(2015/05/14)