そろそろ結婚も考えていかんとの。
君が為
「、出かけんか?」
俺は現在、と同居している。
指輪は一応あるものの、まだプロポーズのきっかけがつかめないんじゃ。
「あー、駄目。」
「珍しいのぉ。何かあるんか?今日は仕事休みだろ。」
「親のお墓参りに行きたい。」
*
(何でこうなるんじゃ…)
仁王は車のエンジンをかけながら溜息をついた。
「花は?」
「昨日買った。」
最初から行く気だったか。
シートベルトを締めるとの両親の墓地へと向かった。は仁王が運転している姿が好きだ。
正確には、その横顔と、サイドブレーキを扱うときの動作だ。
どことなく男気が感じられて、カッコイイらしい。
そういうのを聞かされたせいか、助手席から時折感じる視線を気にするようになった。
「雅治、」
きっとこちらを向いて話しているのだろう。よそ見はできないのでそのままの話を聞く。
「数珠持ってきた?」
「あ…」
急に決定したため、線香やら蝋燭やらをすっかり忘れていた。
なんで花だけ覚えとったんじゃろ。
「だと思ってちゃんと一式持ってきてます!」
ニシシ、とは意地悪く笑った。
「数珠を持っていないと手でご飯を食べるのと一緒なんだよ。小さい頃おばあちゃんと墓参りに来たとき、私すっごくはしゃいでたの。そしたら怒られて…」
「お前さんは今でも活発じゃからの…子供みたいに。」
「なっ、ひっどーい!」
ムキになるところが子供ぜよ。そんなところも可愛いな。
「ほれ、着いたぜよ。」
車を降りると突風のお出迎え。
「蝋燭、つかんかもしれんぞ。」
「寒っ。雅治、悪いけど車開けて。」
は車内から上着を取り出し、慌てて羽織った。
*
ジャーッというどこでも聞き慣れた音が二つ。バケツ運びなんぞ、学生時代の部活に比べれば…
両手でひょいと持ち上げるとをさがす。
ここに来るのは2度目だ。規則正しく並べられたお墓のどれだったかなんて覚えていない。
(あ、いたいた。)
既に掃除をはじめていたの顔は楽しげだが、どこか寂しさが漂っていた。胸の奥が軽く痛む。
「まーさーはーるー。早く水持ってきて!」
「迷っとったんじゃよ。」
枯れた花を取り替え、水を注ぐ。最近の切り花には『長持ち剤』なるものがついていて、それも一緒に混ぜ入れた。
「次に来るまで咲いてるといいね。」
「流石に無理じゃろ。」
ふとの手が目に入った。上がる様子のない気温と冷水で真っ赤になっている。
「もう掃除は終わりやの。」
懐で密かに暖めておいた彼女の手袋を両手に被せる。
「いつの間に車から…」
「あったかいじゃろ?」
「…うん。」
数珠を仁王に渡すと、はお経を唱えた。
白い息がお経にあわせて踊っていた。
「お父さん、お母さん、これが私の彼氏です。カッコイイでしょ。」
両親に近状報告をする。同居してるだとか、会社で怒られたとか、犬のタマ(仁王が名付けた)が脱走したこととか色々。
「そんなこともあったの…ハハッ。」
「そこ!笑わない!」
「すまん、すまん。」
はおっちょこちょいじゃけぇ、笑い話が多いのぉ。
と言えばどうせほっぺたを膨らませて怒るから言わないが。
最後の報告は予想外だった。
「今度、彼氏の仁王雅治くんと結婚する予定です。幸せにしてもらいます。」
きっと目を見開いていたに違いない。仁王は逆プロポーズを受けたのだから。
「なっ、!それは俺が言うことじゃろ!」
「待てど暮らせど婚約指輪がこないんだもの。それに、親の了承も得ないと。」
「こんな場所でプロポーズする男も女もおらんぜよ。」
仁王は深いため息をついた。
「幸せにしてね」
その一言がズシリと重くのしかかる。
(俺がを幸せにできるじゃろか。)
そういえば、以前話したことがある。
「お前さん、寂しくないんか?」
「雅治がいるから、大丈夫だよ。」
仁王の心は揺れ動くのをやめた。
「俺なりにを幸せにしちゃるけん。」
「雅…っ」
は仁王の胸に飛び込んでいった。
「泣きなさんなって。」
「だって…だって…嬉しくって…」
「よしよし。」
頭を撫でていたら、肩の辺りがポカポカしてきた。
空を見上げると雲の切れ間から光が差し込んでいた。
(祝福…かの?)
もっとお前さんを知りたい。
もっとお前さんを愛したい。
もっとお前さんを幸せにしたい。
「好いとう、。」
−Fin−
(2008/01/21)