そろそろ結婚も考えていかんとの。

 

君が為

 

、出かけんか?」

俺は現在、と同居している。
指輪は一応あるものの、まだプロポーズのきっかけがつかめないんじゃ。

「あー、駄目。」
「珍しいのぉ。何かあるんか?今日は仕事休みだろ。」
「親のお墓参りに行きたい。」



(何でこうなるんじゃ…)

仁王は車のエンジンをかけながら溜息をついた。

「花は?」
「昨日買った。」

最初から行く気だったか。
シートベルトを締めるとの両親の墓地へと向かった。は仁王が運転している姿が好きだ。
正確には、その横顔と、サイドブレーキを扱うときの動作だ。
どことなく男気が感じられて、カッコイイらしい。
そういうのを聞かされたせいか、助手席から時折感じる視線を気にするようになった。

「雅治、」

きっとこちらを向いて話しているのだろう。よそ見はできないのでそのままの話を聞く。

「数珠持ってきた?」
「あ…」

急に決定したため、線香やら蝋燭やらをすっかり忘れていた。
なんで花だけ覚えとったんじゃろ。

「だと思ってちゃんと一式持ってきてます!」

ニシシ、とは意地悪く笑った。

「数珠を持っていないと手でご飯を食べるのと一緒なんだよ。小さい頃おばあちゃんと墓参りに来たとき、私すっごくはしゃいでたの。そしたら怒られて…」
「お前さんは今でも活発じゃからの…子供みたいに。」
「なっ、ひっどーい!」

ムキになるところが子供ぜよ。そんなところも可愛いな。

「ほれ、着いたぜよ。」

車を降りると突風のお出迎え。

「蝋燭、つかんかもしれんぞ。」
「寒っ。雅治、悪いけど車開けて。」

は車内から上着を取り出し、慌てて羽織った。



ジャーッというどこでも聞き慣れた音が二つ。バケツ運びなんぞ、学生時代の部活に比べれば…
両手でひょいと持ち上げるとをさがす。
ここに来るのは2度目だ。規則正しく並べられたお墓のどれだったかなんて覚えていない。

(あ、いたいた。)

既に掃除をはじめていたの顔は楽しげだが、どこか寂しさが漂っていた。胸の奥が軽く痛む。

「まーさーはーるー。早く水持ってきて!」
「迷っとったんじゃよ。」

枯れた花を取り替え、水を注ぐ。最近の切り花には『長持ち剤』なるものがついていて、それも一緒に混ぜ入れた。

「次に来るまで咲いてるといいね。」
「流石に無理じゃろ。」

ふとの手が目に入った。上がる様子のない気温と冷水で真っ赤になっている。

「もう掃除は終わりやの。」

懐で密かに暖めておいた彼女の手袋を両手に被せる。

「いつの間に車から…」
「あったかいじゃろ?」
「…うん。」

数珠を仁王に渡すと、はお経を唱えた。
白い息がお経にあわせて踊っていた。

「お父さん、お母さん、これが私の彼氏です。カッコイイでしょ。」

両親に近状報告をする。同居してるだとか、会社で怒られたとか、犬のタマ(仁王が名付けた)が脱走したこととか色々。

「そんなこともあったの…ハハッ。」
「そこ!笑わない!」
「すまん、すまん。」

はおっちょこちょいじゃけぇ、笑い話が多いのぉ。
と言えばどうせほっぺたを膨らませて怒るから言わないが。
最後の報告は予想外だった。

「今度、彼氏の仁王雅治くんと結婚する予定です。幸せにしてもらいます。」

きっと目を見開いていたに違いない。仁王は逆プロポーズを受けたのだから。

「なっ、!それは俺が言うことじゃろ!」
「待てど暮らせど婚約指輪がこないんだもの。それに、親の了承も得ないと。」
「こんな場所でプロポーズする男も女もおらんぜよ。」

仁王は深いため息をついた。

「幸せにしてね」

その一言がズシリと重くのしかかる。

(俺がを幸せにできるじゃろか。)

そういえば、以前話したことがある。

「お前さん、寂しくないんか?」
「雅治がいるから、大丈夫だよ。」

仁王の心は揺れ動くのをやめた。

「俺なりにを幸せにしちゃるけん。」
「雅…っ」

は仁王の胸に飛び込んでいった。

「泣きなさんなって。」
「だって…だって…嬉しくって…」
「よしよし。」

頭を撫でていたら、肩の辺りがポカポカしてきた。
空を見上げると雲の切れ間から光が差し込んでいた。

(祝福…かの?)

もっとお前さんを知りたい。
もっとお前さんを愛したい。
もっとお前さんを幸せにしたい。

「好いとう、。」

 

−Fin−

 

(2008/01/21)