「今日の家事担当はこの人だ!」

 

格下甘え上手

 

母が我が家の中心にあるルーレットを勢いよくまわす。
白い球がのところにカコンと見事に入った。

「雅治、早く出て。どうせまたちゃんよ。」
「わかっとるが、今手が離せんナリ。姉貴出てくれんか。」
「しょうがないわね。」

ピンッポンピンポンピンポンと軽快にインターホンが鳴る。
数十秒後、階段をドタバタと上がる音がした。

「はーるおー!また当番きちゃった…」
「誰が治男じゃ。そんな言い方で頼まれても助けられんのぉ。」
「お願いします、雅治殿。ぜひともマー坊の散歩を。はい、お菓子あげるから。」

マー坊とは、の家で飼われているシェパードだ。人なつっこくて、おとなしく、しかも賢い。
ただし、に対しては別である。
は家の裏庭まで雅治をひっぱると物置の陰に隠れた。
マー坊は雅治を見るとすり寄ってきた。
ターゲットを見て暴れ出さないうちに赤い口輪をはめてやる。
「もういいぜよ」と合図があるまで、は絶対に近づこうとはしない。
以前から、もう何度も吠えられたり噛みつかれたりで、獲物の経験が豊富だからだ。
合図してターゲットが出てきた途端、マー坊の目つきが変わった。
鎖に繋がれているため襲われる心配はないが、は今にも泣き出しそうな顔だ。

「散歩、ついていかなくてもいい?」
「別料金とるが、ええんか?」
「な、なんでもいいからお願い!」
「じゃ、明日は期待しとこうかの。」
「え、明日?」
「カレンダーみてみんしゃい。」

にやりと笑った。これはなにかあるに違いない。
その場から逃げ出すように部屋へ戻って日付をチェックする。
散歩途中の彼らから10mほど離れた地点で腹から思いきり声を出した。

「明日は何が欲しい?」

 

−Fin−

 

(2008/12/18)