、ワカレヨウ。」

 

犬のくせに猫のような

 

「イヤ!私と蓮二はニコイチなの!」
「困ったものだな…」
「柳も大変じゃのぉ。」
「先輩、探す気あるんスか?」

部活帰り、いつものように蓮二と一緒に帰ろうとしていたら、家から電話があった。
また、みーちゃんが脱走したらしい。
みーちゃん(♀)というのは我が家の犬の呼び名である。名前を略さずに言うと、みりたりーちゃん。
よく近所を彷徨き回っては飼い主を困らせる仕方のない奴だ。
丁度そばにいた仁王と赤也に頼んで、わんこ捜索を協力してもらうことにした。
学校の帰り道、最初の十字路にさしあたった。そのうち一本は少し先で二手に分かれている。
蓮二は二手に分かれて探そうという意味で言ったのだが、が言うことを聞かない。

「蓮二とくっついていたい。」
、これを。」

蓮二の胸に飛び込むと同時にハンカチを渡された。鼻血用だ。
これはいつもの癖『DIVE流血病(幸村命名)』が発動して、蓮二の服が真っ赤に染まってしまうのを防ぐためである。
付き合い始めた当初はよく服を染め上げたものだ。真っ赤なハンカチの枚数も数知れず。

「しょうがないナリ。赤也、お前はあっちの心臓破りの坂を探しんしゃい。俺は平坦な道を行くぜよ。」
「な、パワーアンクルも付けてないのに酷いっすよ!」
「かわいい子には旅をさせよ、じゃ。」
「ハァ〜!?」

ゆったりとした足取りで歩いていった仁王につられて、赤也は仕方なく坂道を駆け上がっていった。
夕暮れの分かれ道に残ったのは2人だけ。

「2人で探すとするか。」
「さんせーい!」

住宅地を通り抜けながら、地面の端にみーちゃんがいないか探していく。
思いがけないところにひょっこりいるケースが多いみーちゃんは見つけるだけで至難の業だ。

「蓮二って、いつも私の肩をぜったい離さないよね。」
「そうか?」
「だって私の鼻血、全然止まらないんだもん。」
「そのうち幸村が名付けるかもしれないな。」

会話をしてる間も肩から手を離す気はないらしく、寧ろしっかりと手のひらに捕らえられている。
おかげで失血死しそうな私の身体は家まで持つのか心配になる。

「聞きたいことがあるのだが、何故みりたりーはこんなに家出するんだ?」
「それはねー…みーちゃんは蓮二が好きだから。」
「俺が?」
「ここんとこみーちゃんに会ってないでしょ?脱走したら会えると思ってるの。昨日だって、私が帰ったら蓮二のいたポジションで睨みながら引っ掻いてきて…あれは嫉妬してるとしか思えない。」
が嫉妬してるように聞こえるが?」
「な、なんで私が…!」
「冗談だ。お前が犬に負けてどうする。」
「うっ…」
が構って欲しいようにも思えるな。」
「れ、蓮二がお好きなら、私は犬にでも猫にでもなりますけど…?」
「フッ、は人間のままで充分、魅力的だ。」

最後の方の言葉が耳元で弾けて、少しこそばゆくなった。

「おーい、見つけたぜよ。」
「車の下に隠れてたっス。」

振り返ると、私に睨みをきかせているような、そして今にも蓮二に飛び付きそうなみーちゃんが2人に連行されてきた。
犬になんか負けない…!
手に持っていたハンカチをみーちゃんに投げつけると、大きな声で吠えられた。

 

−Fin−

 

(2009/10/11)