「…さん…聞いてるのですか…?」

 

仏の顔も三度

 

「あっ…観月さん、おはようございます〜」
「はい、おはようございます。…って、貴方は人の話を聞いてるのですか?」
「はい…?何のお話でした〜?」
「…もういいです」

…私は観月はじめ。
この優秀過ぎる頭脳、運動神経の良さ、そして美貌…
この完璧なボクには、嫌いなものがあります。
それは。
超天然ボケ炸裂にぶちんノロマ女、。んふっ
ボクの嫌味が通じないからこれまた小賢しい…
大嫌いですよ、あんな女。
…ボクは、来る日も来る日も彼女にノロマ連呼していました。
ある日は

「あ、観月さん〜、鈴木先生が数学のノート提出って言ってましたよ〜…?」
「ああ、そうですか。それはどうもありがとうございます、ノロマさん。」

またある日は

「みづ…」
「名前呼ばないで下さい、ボクまでノロマになります」

またまたある日は

「み…」
「ノロマ、鬱陶しいです」

…ボクはノロマノロマと言い続けてきました。
そうして彼女はボクに何も話しかけなくなりました。
それからボクに異変が起きました。
…なんでこんなに胸がズキズキするのでしょうか?
シナリオではボクは彼女が大っ嫌いで、彼女はボクに根気強く話しかけてくる筈です。
…全然シナリオ通りじゃない!!!

さん」

ボクはシナリオ通りじゃない事を責める為にわざわざ話しかけました。
すると彼女はなんていったと思いますか?

「名前呼ばないで下さい、ワタシまでナルシストになります」

…と言ったのです。
その時のボクは信じられなかったのでもう一回呼びました。
すると

「ナルシスト、鬱陶しいです」

………。
驚きました。
あのほひゃひゃ〜んとした彼女が。
怒っている。
ボクのこのずきずきは一層強まりました。…何故でしょうか?
彼女は言いました。

「…そう言われると…辛い…でしょう…?」

彼女は泣きそうな顔をして、微笑みました。
ボクは、その時の彼女の表情が忘れられません。
すると急にどきどきしてきました。
この気持ちの正体は…?
ボクは一日ずっと考えていました。
その後の授業にも、部活にも身が入りませんでした。
彼女を怒らせてしまった事と…この激しい動悸のせいで。
野村君に相手の事をずっと考えたり、ずきずきしたり、どきどきしたりする感情は何かと聞いてみました。
すると彼はそれは人を好きになったときの感情じゃないかと言ってきました。
野村君のくせに…んふ
…ボクが…さんを…?
すると急に気持ちが楽になりました。
嗚呼、ボクは彼女が好きなのだ、そう認めたからです。
彼女に謝ろうと、そしてこの想いを告げようと思いました。
恐くなりましたが…勇気を出して。

「んふ、さん」
「…」

彼女は顔をそっぽ向けました。
ボクは微笑みました。

「…さん…聞いてるのですか…?」
「…」
「…酷い事を言ってしまってすみません…」

そう言うと。
彼女はこちらを向いてくれました。
ボクは嬉しくなって、彼女を抱きしめました。
彼女は驚いたようです。
でも、嫌ではなさそうです。
期待しても、いいですよね…?

私は彼女が大好きです。
もう泣かせたり怒らせたりしませんからね…さん…

 

−Fin−