下腹部に少し痛みを感じ、トイレに駆け込んだら、乙女週間が始まっていることに気付いた。

 

彼はアポテイカー

 

(あ、暑い…)

今は夏真っ盛り。この個室にクーラーをつけたいと度々思う。
湿気でべた付いた収納ボックスを開け、手探りで物を取りだそうした。
しかし、そこにコットンの柔らかさはなく、硬い箱の手触りだけだった。
どうやら切らしているらしい。

「げっ、買いに行かなきゃ…おなか痛いのに面倒。」

仕方なく、鞄に入れていた予備を探した。



面倒と言っても、必需品なんだから仕方ない。は近所のドラッグストアにしぶしぶ出向いた。
買い物かごに目的のモノを入れた後、店内を物色する。
が商品棚の角を曲がり、レジの方を向いたとき思考が一時停止した。

(し、白石!?)

レジ打ちをしているバイトの男性の外見は、外にハネたクリーム色の髪、コテコテの関西弁、 左手首に巻かれた包帯、全てを総合しても白石の他に思い当たる人はいない。
はとっさに棚の影に隠れると、頭の中を整理しはじめた。

(白石って、こんなところでバイトしてたの!?い、今レジに行くと私が買うものがバレ…る!?)

よりによってこんなときに、なんて間が悪いんだろう。
しばらく様子を見て、レジを離れたときに行くしかない。
一段落したところでカメラモニターを覗くと、不審な動きを見せる客が写っていた。

(なんや?こいつ。めっちゃこっち見てるやん。)

商品棚の隙間から、しきりにレジへと視線がとんでくる。
白石は他の店員にレジをまかせると、モニターに写っていた場所を確認しに行った。



(ちょ、ちょっと何でこっちに来るの?!)

はレジ覗いていた側とは反対へ移動し、白石からは見えないように別の通路へゆっくり動いた。
キョロキョロ捜されると困るので、通路は一つとばしだ。
今の内に会計を済ませて、とっとと薬局から去ってしまおう。

(あぁ!レジに人がいない…!)

白石以外の店員は近くにいないか、ふと横を見るとレジの近くで荷物を運んでいる男性がいた。

「あの…」
「あ!少々お待ちください!」
「どこや…どこ行ってん。」

確かに怪しい人物がこの通路にいたはずやのに。なんか見たことある気ぃするんやけどなぁ…

「白石ー!レジ頼む!」
「はい!」

荷物を運んでいた店員は白石を呼んだ。ということは…

「あ、おったー!」
「キ゛ャー!」
「なんや、やったんか。」
「あぁ…ばれた…」

は観念した。
レジに商品を置いたら、ちょっとだけ白石の目が大きくなったような気がした。
こうなってしまったら、以前から溜めていたポイントカードを出すのも恥ずかしくもなんともない。

が常連さんやったとは…知らんかった。」
「なんでもいいから早くやって。」

ぶっきらぼうに答えると、白石は1オクターブ高い声を出した。

「お客様、溜まったポイントは使われますか?割引、もしくは商品と交換もできますが。」
「商品?そんなのあったっけ。」
「たった30Pで俺と交換でき「遠慮します、割引で結構です。」…残念やな。」
「要らない。30円でも安い方がいいし。」
「『薬局で遭遇記念』に交換したらええのに。おまけつけたるわ。」
「え、ホント?」
「試供品やけどな。お会計、1840円です。まいど!」

家に帰って袋の中を見てみると、試供品と書かれたラブレターが一通入っていた。

「あのヤロー!」

 

−Fin−

 

(2010/08/09)

アポテイカー(Apotheker)は、ドイツ語で男性の薬剤師のこと。女性はアポテーケリン(Apothekerin)です。