下腹部に少し痛みを感じ、トイレに駆け込んだら、乙女週間が始まっていることに気付いた。
彼はアポテイカー
(あ、暑い…)
今は夏真っ盛り。この個室にクーラーをつけたいと度々思う。
湿気でべた付いた収納ボックスを開け、手探りで物を取りだそうした。
しかし、そこにコットンの柔らかさはなく、硬い箱の手触りだけだった。
どうやら切らしているらしい。
「げっ、買いに行かなきゃ…おなか痛いのに面倒。」
仕方なく、鞄に入れていた予備を探した。
*
面倒と言っても、必需品なんだから仕方ない。は近所のドラッグストアにしぶしぶ出向いた。
買い物かごに目的のモノを入れた後、店内を物色する。
が商品棚の角を曲がり、レジの方を向いたとき思考が一時停止した。
(し、白石!?)
レジ打ちをしているバイトの男性の外見は、外にハネたクリーム色の髪、コテコテの関西弁、
左手首に巻かれた包帯、全てを総合しても白石の他に思い当たる人はいない。
はとっさに棚の影に隠れると、頭の中を整理しはじめた。
(白石って、こんなところでバイトしてたの!?い、今レジに行くと私が買うものがバレ…る!?)
よりによってこんなときに、なんて間が悪いんだろう。
しばらく様子を見て、レジを離れたときに行くしかない。
一段落したところでカメラモニターを覗くと、不審な動きを見せる客が写っていた。
(なんや?こいつ。めっちゃこっち見てるやん。)
商品棚の隙間から、しきりにレジへと視線がとんでくる。
白石は他の店員にレジをまかせると、モニターに写っていた場所を確認しに行った。
*
(ちょ、ちょっと何でこっちに来るの?!)
はレジ覗いていた側とは反対へ移動し、白石からは見えないように別の通路へゆっくり動いた。
キョロキョロ捜されると困るので、通路は一つとばしだ。
今の内に会計を済ませて、とっとと薬局から去ってしまおう。
(あぁ!レジに人がいない…!)
白石以外の店員は近くにいないか、ふと横を見るとレジの近くで荷物を運んでいる男性がいた。
「あの…」
「あ!少々お待ちください!」
「どこや…どこ行ってん。」
確かに怪しい人物がこの通路にいたはずやのに。なんか見たことある気ぃするんやけどなぁ…
「白石ー!レジ頼む!」
「はい!」
荷物を運んでいた店員は白石を呼んだ。ということは…
「あ、おったー!」
「キ゛ャー!」
「なんや、やったんか。」
「あぁ…ばれた…」
は観念した。
レジに商品を置いたら、ちょっとだけ白石の目が大きくなったような気がした。
こうなってしまったら、以前から溜めていたポイントカードを出すのも恥ずかしくもなんともない。
「が常連さんやったとは…知らんかった。」
「なんでもいいから早くやって。」
ぶっきらぼうに答えると、白石は1オクターブ高い声を出した。
「お客様、溜まったポイントは使われますか?割引、もしくは商品と交換もできますが。」
「商品?そんなのあったっけ。」
「たった30Pで俺と交換でき「遠慮します、割引で結構です。」…残念やな。」
「要らない。30円でも安い方がいいし。」
「『薬局で遭遇記念』に交換したらええのに。おまけつけたるわ。」
「え、ホント?」
「試供品やけどな。お会計、1840円です。まいど!」
家に帰って袋の中を見てみると、試供品と書かれたラブレターが一通入っていた。
「あのヤロー!」
−Fin−
(2010/08/09)
アポテイカー(Apotheker)は、ドイツ語で男性の薬剤師のこと。女性はアポテーケリン(Apothekerin)です。