「謙也、金ちゃん見んかったか?」

 

habitat

 

「いや、見てへんで。どないしたん?」
「さっきから探しとるんやけど、見つからんのや。いつもやったら一番乗りで部室に来るのに…」
「金太郎さんなら、図書室の方へ走って行ったわ。」
「ホンマか!行ってくるわ。」

今日も白石は後輩育成に手を焼いていた。問題児は何かと面倒を起こす。今日はまだマシな方だ。
小春に言われた通り図書室に向かってみると、まさに今、中へ入ろうとする金ちゃんを見つけた。

「金ちゃん、何してるん?」

白石に気付いた金太郎の表情が一気に強張っていく。
急速冷凍されたかのように動きが硬くなっていた。

「げ、白石…」
「はよ部活行くで。」
「わいは本返してから行くわ。」
「…本持ってへんけど?」
「間違うた、本借りてから…」
「金ちゃん本読まへんやろ。はよ、行くで。」
「いーやーや!」
「金ちゃん!」
「いーやーや!」

金太郎がダダこねていると、図書室の扉がガラッと開いた。
いかにも迷惑そうに眉間にしわを寄せた女の子がこちらを見ている。

「あの、静かにしてもらえませんか?」
「「すみません…」」

一言だけ放ち、女の子はピシャッと扉を閉めた。

「行くで、金ちゃん。」
「うぅ…」




「金太郎さん、全然元気ないわね。」
「落ち込んでいるようにも見える。」

部活に参加させることはできたものの、金太郎は普段と違って全く練習に身が入らず、ラケットが飾りになっていた。
どうも様子がおかしい。金太郎が落ち込んでいると、まるで皆既日食の始まりのように部の士気が落ちていく。

「どないしたん、金ちゃん。」
「嫌われてもうた…」
「ん?」
「…白石のせいや!」
「なんや、さっきのあの子のことか。」
「…ちゃん言うんや。毎日図書室におってな…」

金太郎は話し始めた。
とクラスが同じこと、休憩時間も一人で黙々と本を読んでいること、人と喋る光景を見たことがないこと、
お昼時になると真っ先にいなくなり、昼休みが終わりかける頃に戻ってくること…
喋れば彼女の話がどんどん出てくる。白石は途中でそれを遮った。

「行ってき。」
「…行ってもええんか?」
「あぁ。このままここにおってもアカンわ、金ちゃん。」

金太郎は図書室へ一目散に走り出した。

 

−Fin−

 

(2010/10/31)