見ちゃった。
エラー
殴ってた。殴られてた。あれは…ケンカでしょ。どうして始めちゃったんだろう?
喧嘩の相手はどこかへ行ってしまったようだ。
残った海堂は花壇に腰をおろして、フシューっと一息ついた。
切れた口角を指で拭うと、ピリッと痛みが走る。
「はい。」
目の前に、水にぬれたハンカチが現れた。
「頬腫れてるよ。」
「…すまねぇ。」
「ほら、絆創膏も。」
痛々しい傷口に貼ってやると、ガーゼがじわじわと赤く染まっていた。
「見てたのか。」
「ここにいるって乾先輩に聞いたから来てみたのに、テニスの練習じゃなくて格闘技してるんだもん。ビックリしちゃったよ。」
「…用事、あるんだろ。」
「乾先輩の伝言。『先程、恋敵らしき人物が訪ねてきたから気をつけた方がいい』ってさ。さっき喧嘩してた人だよね?」
「あぁ。『を返せ』だと。」
「え、私?付き合った覚えないんだけど…」
思い当たることがないか、は記憶の引き出しを開けて探し始めた。
昨日、おととい、一週間前、一か月前…
「あ。」
「どうした?」
「さっきの人、廊下でぶつかって、落とした物を一緒に拾ってたら、たまたま手触っちゃった人だ!」
「ドラマみたいな展開だな。それで勘違いしたのか。」
「私のせいで殴られちゃって…ごめんね。」
は海堂をギュッと抱きしめながら謝った。
「フシュー。」
−Fin−
(2010/12/11)