大切なモノが身の回りから消えると、その穴を埋めようと必死になる。

 

映画観賞会

 

「ここか?」
「違う、そこじゃないって!」
「じゃぁ、一体どこなんだ。」
「若のロッカーに入れた。」
「…俺のロッカーはひとつだけだぞ。」
「探したけど、見つかんないんだもん。だから、そこにはない。」

昨日、部室にある日吉のロッカーに入れさせてもらったDVDが忽然と消えている。
明日持って帰ればいいや、とロッカーの鍵を閉めて帰ったら、翌日無くなっていた。
DVDは借り物。探さないわけにはいかない。
悪いことは重なるものだ。貸した人が少々ネチっこい忍足先輩ときている。
一体何度目かも分からない『一生のお願い』に日吉は呆れて溜息をついた。

「盗まれたのかな。若、間違えて家に持って帰ってないよね?」
がDVDを入れた後から、俺はロッカー開けていない。…それにしても、お前、ラブロマンスなんか観るんだな。」
「それってどういう意味よ。」
「柄でもないことするから無くすって言いたいだけだ。」
「ひっどーい!」

回し蹴りが襲い掛かった。日吉はとっさに屈んで自己防衛のポーズ。
日頃から培われている反射神経のお陰で、被害はキノコの表面を少し掠める程度で済んだ。が。
勢い余って直撃した脚はジンジンと、衝撃の大きさを感じた。
それと…

「やばっ、凹んでる。」
「…何やってんだ。」

少し変形した忍足先輩のロッカー。
扉は誤魔化しようがないな、すぐに直す方法も見つからないので、扉だけ閉まるように元の状態に近づけておいた。

「ロッカーは跡部さんが直してくれるだろう。問題はDVDだな。」
「ちょっと、これ…あーっ!」

ロッカーを蹴飛ばしたときに落下した忍足先輩の私物の中に、捜し求めていたDVDを発見した。
先輩のロッカーにこれが入っていた。
ということは、先輩が若のロッカーを開けた…?一体どうして。
ともかく、ディスクが衝撃で傷ついていないかを確認しよう!
ケースを開こうとしたそのとき、部室のドアが勢いよく開いた。部屋の空気が対流で入れ替わる。
外からの風に髪を靡かせてやってきたのは丸眼鏡だった。

「開けたらあかん!」

忍足は開きかけたケースを取り上げると、ホッと胸を撫で下ろした。

「ど、どうしたんですか。」
「いや、ちゃんに貸そう思てたこれな…ちゃうDVD入ってるんや。今日、ちゃんとしたもん持ってきたからそっち渡すわ。」
「忍足先輩、やましいDVDでも入れてたんですか?俺のロッカー勝手に開けてまで…」
「ち、ちゃうわ!間違えて入れてもうたから、ちゃんの目に触れる前に回収しときたかったんや!」
「…せ、先輩?」
「つまりそのケースの中には、人前で言えないようなものが入ってるんですね。」
「ひっ、日吉…」
、忍足先輩から今後一切、物を借りるなよ。」
「…うん。」

日吉は荷物をまとめると「行くぞ」と帰りを促してきた。
帰り道は変な空気が流れていた。何の話題を切り出せばよいのか見当が付かない。
無言の状態が続いたまま、駅前まで来てしまった。
様々なお店が建ち並んだ道並み。コンビニや携帯のお店、食べ物屋さん、CDショップもある。
借りようと思っていたDVDが結局みれなくなってしまったことだし、お店で同じタイトルの物を借りよう。
今日はこの辺で若と別れて帰ろうかな。

「若、私はここで…」
「俺も行く。」
「は?」
「は?じゃないだろ。俺は新しいシリーズを借りに行くだけだ。」
「あ…そう。」
「それと、」
「まだ何かあるの?」
が見る映画を見張らないとな。」
「…素直に映画見たいって言えばいいのに。」

 

−Fin−

 

(2009/05/04)