いつもは喧嘩仲間。たまにはサボり仲間。

 

each other

 

退屈なら、授業などやっても頭に入らないし、意味がない。
そんな日は決まって屋上に行く。誰も来ないから。
でも、今は夏休みなのにサボった分補習させられている。とてもじゃないが、有意義といえない。
補修を終えると、屋上へ向かった。誰もいないプライベート空間。
日陰の一番涼しい場所で制服の暑すぎる上着を脱いで、シャツのボタンを下から半分まで開けて、
おまけに寝転がり、空に浮かぶ雲の形を見てみた。あまりに気持ち良く、いつの間にやら瞼が閉じていた。
脳裏の奥で「ラッキー!」と、声がした。

ちゃんの寝顔、撮れちゃった。」

確かな声を聞き、すぐさま目を覚ました。少しだけ入り込んだ日差しが眩しい。
目の前には嬉しそうにカメラを持ちながらこちらを見る者がいた。

「千石!?」
「おっ、お目覚め?」

千石はそういうと、再びカメラを構えた。カシャッと音が鳴る。
はフラッシュの光に目がくらんだ。

「何枚撮ったの?」

寝起きなので、いつものような喧嘩腰の声は出なかった。

「たくさん。」
「写真のネガ、ちょうだいね。」
「ツーショット撮ってくれたらあげてもいいかなぁ?」
「無理です。」
「じゃ、俺サボってたら伴爺がうるさいから、テニス部に戻るよ。アンラッキー君、バイバイ!」
「ちょっと待ってよ!」

は起きあがり、屋上をすでにでた千石を追おうとした。
しかし、服のボタンを閉め忘れていたことに気付き、慌てて閉めた。
その間に、千石を見失ってしまった。仕方なく、ゆっくり階段を下りてゆく。
コツコツとしか響かないはずの校舎に、妙なアナウンスが流れた。

さん、至急放送室まで来てみましょう。いいことあるかもよ?」

その声は千石だった。夏休みだからといって、別に先生が誰一人いないわけでもない。
こんなアナウンスを勝手に流されるのは、少し屈辱的だ。
足早に恥ずかしい校舎を走り、すぐさま放送室へ向かった。
だが、いない。いたのは、伴爺だ。

「おや、さん。いま変な放送がありましたよね。」
「あ、あの、その人多分千石です。で、今どこに行ったか見ませんでしたか?」
「いいえ。放送、かけてみましょうか。来るとは思いませんけど。」

と、伴爺が言った。も放送室に入った。

「一体どうやって入ったんでしょうねぇ。」

と伴爺が言う中、は放送室の窓が開けっ放しになっていることに気付いた。

先ほど、伴爺がこの部屋の鍵を開けていたところを見たような気がする。
窓越しにボーッと見ていたグラウンドに、オレンジ色の髪の人が見えた。千石だ。
は伴爺のことなんか構わず、放送室をすぐに飛び出した。
見つけた場所に行ってみると、千石ではなく南が立っていた。どうやら、千石に使われたようだ。

「千石、何処に逃げた?」
「あぁ、あいつなら校舎に逃げていったぞ。」
「どうして捕まえてくれないのよ〜!」
「俺も捕まえて練習に参加させたいんだが、どうも逃げ足がはやくて…」

校舎の入り口が、三つも四つもあるというのも、困ったものだ。
しょうがないなぁ、と思いつつ、再びゆっくりと歩き出した。少々、この追いかけっこは疲れる。
同じルートで帰っていったため、また伴爺に鉢合わせになった。

「千石君も悪い人ですねぇ。皆さんから運を奪ってるとしか言いようがありません。」
「そうですねー。将来、全部自分の身に跳ね返ってきますよ。」
「フフッ、面白いことを言いますね。」

伴爺が言う言葉を聞くと、自分のやっていることがばかばかしく思えてきた。
台無しにされた気持ちのよい風の吹く屋上へ。もう一度行こう。そのうちひょっこり現れるだろう。
多少遅い足取りで階段を全て上りきった。目の前のドアが開いていた。
開けっ放しにしていただろうか、記憶を辿りつつは外へ出た。
フェンスにもたれかかる奴がいた。はわざと勢いよくドアを閉めた。
奴は体をビクッとさせ、こちらを振り向いた。

「ありゃー、見つかっちまったの。残念。」
「カメラ渡して。」
「別にいいよ。」

すんなりと渡す千石がわからない。千石はカメラごと渡すとこういった。

「カメラもあげちゃっていいくらいだよ。だって、それ、ポラロイドカメラだから。ほら、写真はこっち。」
「なっ、返してよ!」

は千石の持つ写真を奪おうとした。すると千石は持っている方の手を高く上げた。
は背伸びをして何とかとろうとするが、届かない。
ジャンプしながらとろうとした矢先、千石は持っていた写真を屋上から落ちないように内側投げ込むと同時に、前にいるに覆い被さるように抱きついた。
一瞬のことだったので、は固まった。

「写真より、実物もらった方が、ラッキーだもんね。」
「せ、千石!」

はカメラを落としそうになった。
だが、つながっている紐を何とかつかみ、壊れるのを防いだ。

いつもは喧嘩仲間。たまにはサボり仲間。
でもいまからは、恋愛仲間?

 

−Fin−

 

(2004/09/21)