始まりがいつからなのか、わかっているものはそう多くない

 

debut

 

また春が来た。
町のあちこちで緑が芽吹く季節。頭の上に広がる快晴の空。暖かい光を全身に浴びせる太陽。
寒さで縮こまっていた身体が徐々にほぐれて動きだし、無性に両手を広げたくなった。そうだ、窓を開けよう。
南から吹く風は起床したばかり。熱気がこもった室内には丁度良い。

、寒いから閉めてくれんか?」
「開けた方が気持ちいいじゃん。」

窓際の席に与えられる特権を、隣の席で丸くなっている仁王が奪おうとしてきた。
まだ冬だといわんばかりに上着を羽織り、鋭い目で猛抗議している。
体育会系だったら身体を動かせ、バカヤロー!

「寒い、寒い。はよ、閉めんしゃい。」

言い方がきつく感じて、ちょっと頭にきた。
私は窓を全開まで開けた。教室のカーテンは私を飲み込むくらい、大きく翻った。
銀色の髪は乱れ、目の鋭さが一層強まった。
カーテンに巻かれた私の髪も静電気でグチャグチャになったけど、風の気持ちよさの方が打ち勝っていた。

「お前さん、そんなに俺を怒らせた…っくし!」
「…に、仁王?」

仁王がくしゃみする姿は珍しい。その後も何度かくしゃみが続いて、窓を閉めたら少し収まった。
これって、もしかして…

「仁王って、花粉症持ちだったっけ?」
「そんなことなか。」
「あー、じゃぁ、今日から花粉症デビューかもね。」
「お前さんが窓開けんかった...っくし!」
「スイマセンネ〜。ティッシュあげるから許せ。」
「身体が温まって、暑くなってきたぜよ…」
「下敷きで扇ごうか!」
「花粉が飛ぶじゃろ、やめんしゃい。」

その日の仁王は授業中もくしゃみばっかりしていて、可哀相に思えてきた。
最初にくしゃみした瞬間、不覚にも彼にときめいた事実は秘密にしておこう。
片思いデビューは、もう少し先の話だから。

 

−Fin−

 

(2009/03/28)