赤い紐でも括っておこうか。

「周助がテニスやってなければ良かったのに」

ぽつりと呟いたの言葉。
驚いたのと、自分の打ち込んでいる物を否定されたのだから怒るべきか。
まぁ、まず話を聞かない事にはどうしようもない。

「突然だね、なに?」
「だって。テニスしてるおかげで登下校の時間も合わないし、土日だって部活行ってるし」
「今更そんなこと言うんだ」
「改めて考えたら私よりテニスが大事なわけじゃない」

うん、痛いところをついてくる。
ソファでマグカップに口つけながら、その頬はぷくりと膨れていた。
幼馴染であり不二家を自由に出入りしているが帰宅時に家に居ることは珍しくもないが、今日はなんだかご機嫌斜めのようだ。

「大事にされてないって思ってるの?」
「そんなことないけど」
「それじゃあ、なにかあった?」
「…今日ね」

隣に座れば、は傾いて肩に体重がかかる。
こっちからも押し返してやると、上目使いの瞳は悔しそうな色をしていた。

「後輩に、不二先輩って付き合ってる人いるんですかって聞かれたの」

斜め上の答えに思わず苦笑。
本人にはそんな笑える問題でもないらしい。

先輩は幼馴染なんですよねーって。あなた達の目の前にいる私が彼女だってのに!」
「はは、それで怒ってるんだ」
「怒りますよそりゃ!挙句に私は手塚くんと付き合ってる説があるらしくて意味わからない!」

もー!
完全にこちらに倒れてきたは、ソファと僕の背中の間に顔を突っ込むという謎の行動に出た。
もぞもぞと動く頭がくすぐったい。

「周助がテニスに一生懸命だから、私といる時間少なくてそんなこと言われるんだ。
テニスやってるから格好いいなんて言われてファンクラブなんてできちゃうんだ。
そんなにモテるからいつもバレンタインでチョコもらいすぎて私にもくれるから食べちゃうし太るんだ」
「最後のは関係なくない?」
「そんな気がする」

ちょうど言いたいことを吐き出すのに良い空間らしく、しばらく一人で騒いでいた。
マグカップには飲みかけのココア。
もらっちゃおう、と飲み干す頃には愚痴も治まり、鼻をすする音がする。
ずぼっと頭を抜いたと思ったら、何故か泣きそうになっていた。

「つまり?」
「テニスしてる周助が格好良くて好きなので、テニスやめないでください」
「うん、そのつもり」
「やめればいいなんて言ってごめんなさい」
「今回は許してあげよう」

ひとしきり騒いで気持ちの整理もついたようで。
急に恥ずかしくなったのか、カーディガンの袖を目一杯伸ばして両手で顔を覆った。

「僕が頑張ってるテニスを否定されると流石に傷つくよ。次は怒るからね」
「たぶん私、テニスに嫉妬してるの。ずーっと周助を夢中にさせてるんだもん」

テニスに嫉妬、っていう発想がらしくて可愛い。

「私ばっかり一人で嫉妬してて馬鹿みたい」

マグカップを手に取り、中身が無いことに気が付いて怒られたが、すぐさま台所へと向かっていった。
がいない間にこっそりと零れる溜息。
一人で嫉妬して?なに言ってるんだ、こっちだって毎日といっていい程に嫉妬してるのに。

先ほど不意に出てきた手塚の説。
僕が知らないとでも思ったのかな?

生徒会の会長である手塚と、副会長の
週始めの全体朝礼で必ず隣に並んでいて、二人で何かを話している。
それも楽しそうにも手塚もこっそり笑いながら。
それを見ている生徒は僕だけじゃないんだ。だからそんな噂が流れるんだ。

姉さんにココアのおかわりを貰って機嫌も直ったのか、がにこにこと戻ってくる。

「どうしたの?」
はさ、手塚のことどう思ってるの?」
「…はい?」

急な問いかけに戸惑いながら、また隣に座ってはココアを啜る。

「手塚くんは良い人だと思うよ。真面目だし決めたことちゃんとやるし、優しいし」
「実は僕も"手塚と付き合ってる説"聞いたことあるんだよね」
「え、そんな広まってるの!?」
「そりゃぁ」

言いかけてやめた。朝礼のことは黙っておこう。

「手塚くんに申し訳ないよ、私なんかと噂になっても嬉しくないだろうに」
「それはどうだろう」
「周助、どういう意味?」
「向こうがその気だったらどうする?」

意地悪だったかな?
うーん、とは天井を見上げて少し考える。

「手塚くんはね、上司にしたいタイプ。生徒会で一緒に働くの楽しいもん。仕事仲間って意味なら好きだよ。
でも彼氏とか旦那とかは固すぎて絶対無理」
「ふふ、絶対って」
「あ!ダメだよ!!部活で手塚くんに言っちゃダメだからね!!気まずくなるじゃん!!!」
「わかってるよ」

ああ、可哀そうに。
手塚の気持ちも知ってるからこその問いかけだったけれど、彼は見事に撃沈のようだ。

「それに」
「ん?」
「私にはちゃんと周助がいるんだもん。浮気なんかしませんよーだ」

今日一番の笑顔。
それを僕にしか見せないでって言ったら、愛が重いって怒るかな?

 

チョコレート・エンヴィ

 

ほろほろ溶けてく、甘い嫉妬。

 

−Fin−

 

(2015/11/06)

後書き:ななはら様
リクエストいただきました「不二周助夢」。
不二くん!初挑戦でした口調が果てしなく迷子です。手塚部長の巻き込まれ事故感がなんとも本当にすみませんでした。手塚部長も好きよ。書きやすいもの、ということで、自由に書くとどうしても幼馴染ものになってしまう。
そういえば青学っ子で夢書くのも初めてなんだなぁと思いながら、楽しく書かせていただきました。
おみち様・吉平様のWildKissen様と相互リンクさせていただいた記念です!
WildKissen様は夢小説もキャラも多数多彩で一度読み始めてしまうとなかなか抜け出せません!庭球夢の宝庫です!
おみち様・吉平様のみご自由にお持ち帰りください!今後もよろしくお願い致します!

ななはら様、相互・相互記念夢ありがとうございました!
密かに焼きもちをやいている不二君がとっても愛くるしい…初挑戦とは全然思えません…!
サイトの説明までしていただいて…身に余るお言葉です…恐縮です。
こちらこそよろしくお願いいたします!