もう春だというのに、寒くて。
桜並木は、通るだけにして…足早に周助宅へ向かう。

「そろそろ来る頃だと思ってたよ」

2階の窓から笑顔を覗かせて、周助は微笑む。
それにつられて私も笑みがこぼれる。
ドアを開けてもらい、中に入る。
外と違い…心地良い暖かみが身にしみる。

「今日、寒いね?」

階段を上りつつ上着の冷たさを感じ、言葉を零して。

「そうだね…今日は家でゆっくりしようか?」

開けられた扉、周助の匂いがして…安心する。
先ほど周助が私を見下ろしていた窓を見る。
…水滴でくもるそこに、外の空気の冷たさを思い出す。

「なにか暖かいものでも持ってくるよ」

周助が戻ってくるまで、窓際に並べられたサボテンを見る。
小さくて、愛らしくて、まあるいサボテン。
でこぼこしてて、規則的なトゲの生え方をしているもの。
ピンクの花、黄色の花、白い花。
いろんなサボテンがあって1つ1つじっくり見ていく。

「…おもしろい?」

既に戻って来ていた周助がテーブルの側で腰を下ろしていた。
手には湯気のたつカップが握られている。


「冷めないうちにどうぞ」
「ありがと…」

私もペタリと座り、テーブルの上のカップに手を伸ばす。
喉から胸へ…暖かさが通っていくのがわかる。
…続いて、体全体が和らぐように暖まっていく。

「お花咲いたんだ?」
「うん、小さいけどね」

テーブルの真ん中にちょこんと置いてあるサボテンが可愛い。
私の一番のお気に入りを覚えててくれてる。
トゲがやわらかくて、綺麗な色の小さな花が咲いている。
何度も何度も触っていると、周助から笑みが消えた。
少し目を開いて、頬杖をつき…眉をひそめる。

「周助?……ちょっと、その顔、怖いかな…?」

そう小さく呟いても周助は顔色ひとつ変えず、じっと私を見ている。

「……え…私、何かした…?」

しばらく沈黙が続いて、ふと周助がいつもの笑顔に戻る。

「僕のことは、構ってくれないんだね?」

そう言って…少し眉を下げる。
思わぬ言葉に私は思わず瞬きを繰り返す。
私が周助の家に来てるのに、サボテンばっかり見てるから?
それってもしかして。

「ヤキモチとか、だったり、する?」
「さぁ…どうかな?」

………意地悪だっ…。
サボテンにヤキモチを妬くの?
…周助。
私、周助に満足してもらえてないのかな…。
そうやって私が百面相してると、周助は小さな声で笑った。

「な、なんで笑うのよ…!」

こっちは真剣なのに…。
真剣に、周助のこと考えて…。

「…やっと僕だけ、見てくれたね」
「えっ…?」
「僕のことだけ、考えて。頭の中に僕しかいない?」

その言葉と、周助の笑顔が、胸にフワリと落ちてきて。
小さく頷いて…途端に顔が熱くなる。
柔らかい微笑みが、私を安心させてくれる。
好きだよ、と…
伝えてくれてるみたいで。
醜い感情も、優しさに変わる。

 

秘めた熱意

 

心も暖か。

 

−Fin−

 

(2010/04/18)