彼女は、僕が欲しいと思った人。
誰かに夢中になったり、他のことが考えられなくなったり、そんなことありえないって思ってたけど。
彼女は、僕を簡単に夢中にさせてくる。
ねえ、僕がいつも優しいだけだと思ってるんでしょ?
僕だって、男だよ。


教室へ向かう廊下で最近考えること。
どうやってにこの気持ちを伝えるか、ということ。
つまり。
を、抱きたいということ。

、おまたせ」

部活後、教室へ戻ると夕陽を背にしたはひどく綺麗だった。

「あ、周助。おつかれさま!」

明るい声に弾けた笑顔。
今日の疲れなんてどこかへ行っちゃいそうだね。

、今日なんかかわいい」

いつものことを当たり前に口にする。
真っ赤になるが好きで。

「あ、わかる!?これなの!」

頭をくるんっと振りながら一回転すると、いつも結い上げている髪がカールしていた。

「やってもらったんだー。かわいいでしょ」

正面を向きなおして僕に言う。それをやってもらってるとこに一緒にいたかったなんて、わがままかな?
でもそのせいで、真っ赤なを見そこねた。


僕は大抵のことはコントロール出来るはずで、ゲームメイクもそれに助けられている。
でもどうしてだろう。
はいつも思い通りにならない。


「誰にやってもらったの?」

もう一度後ろを向かせて、カールした髪を指に絡める。

「え、クラスの……友達?」

くすぐったいのか、身を捩りながら答える声がやや震えている。

「ふうん。女子?」

僕はあえて聞く。女子なら、がそんなこと言うはずないから。

「……男子」


男子。
薄々わかっていたけれど、改めて口にされた言葉を噛みしめる。
僕以外の誰かが、のこの髪に触れたのか。
それだけで身体が熱くなる。


「い、いや、待って!あの、その、ね!練習になってくれって!」

言い募るが僕から少し強引に髪を外して後ずさる。

「練習?」
「そう!あのね、美容師になりたいんだって!クラスの子いっぱいやってもらってるんだよ!」

必死そうなの声を僕は静かに遮った。

、こっちおいで」

柔らかい声になるようにそっと吐息を吐き出してから、手を伸ばして誘う。
がおそるおそる近寄ってくる。
湧き上がるのは、どこかどす黒いほどの劣情。
抑えこんで、ぐっとこらえて、を抱き寄せる。
深く深く、例えばそう。
僕がに考えてることとか本当はにしたいこととかがちょっとでも伝わればいい、って。

「周助?」

の腕が背中に回される。少しひんやりしたの手は部活で汗ばんだ身体に心地よい。


ねえ、僕がしたいこと。
は気づいてる?
わかっててはぐらかしてるの?
それとも。
なんにもわかってないのかな。
僕が教えていいのかな。

……」

抱きしめてた腕を緩めて、に顔を上げるように促す。

「え、周助ここはちょっと……あの、えっと、そのっ」

おたおたと腕からもがき逃げようとするをぐっと引き寄せて、顎に手をかける。
何度も、触れているのに。
そのくちびるは未だに僕を甘く誘う。

「今したいんだから、しょうがないでしょ?」

穏やかにたしなめてに口づける。

「周助、ダメだってば……っ」

あきらめたが目を閉じた。


やわらかい感触に意識が飛びそうになる。
もっと、もっと。
欲しがる自分の身体が恨めしい。
これで満足できない。
もっと欲しい。


「ちょ、周助……んんっ」

暴走しかけた身体が勝手にのくちびるを割って舌を潜り込ませる。
一瞬我に返ったけど、気持ちいいから知らない振り。
ドンドンとが僕の胸を押し返して、くちびるを引き剥がす。
ちゅ、と水音がして、離れていった。
名残惜しい。
もう一度と顔を寄せようとしたら、僕に身体を預けたが浅い呼吸の合間に抗議した。

「周助、こういうのは……だから……」
「こういうのは?」
「え!?え、っと、その、だからこういうのは……」
「うん。こういうのってなに?」

いじわるな気持ちがせり上がった。

「周助わかってるでしょ!」

「ううん。はわかってるんでしょ?」
「なっ……周助っ」

抗議顔で睨んでくるけど、僕は笑ってやった。

があきらめた風に肩を落とす。

「だから、その……こういう激しいのは、ね?い、家とかその……」
「とか?」

促すたびにが顔をぱっと上げて怒った顔を作る。

「とか?どこならいいの?」
「そ、その……あんまり人がいないとことか……」

誤魔化したのがわかる、苦し紛れの言い訳。僕はの口がホをかたどったのを見ている。

「ホテルとか?」

言ってやるとわかりやすく真っ赤になった。

「も、もう!そういう恥ずかしいこと言わないで!」

が真っ赤になったのを見て、僕は自分がひどく満足しているのに気づいた。

「じゃあ、家で続きだね。僕の部屋がいい?それともの部屋?」

の目が細められて、次の瞬間僕は驚かされる。

「ここでいいよ」

短く吐き出された言葉の後、首に腕を回されて引き寄せられる。
目を見開いて確認すれば、くちびるにさっきまで触れていたやわらかい感触。
甘い匂い。
ぎこちなさの残るの舌が僕の舌を探しに来た。
反撃するようにくるんで吸い上げればあっけなく力の抜ける身体をかき抱いて、僕はまた欲情する。

「ほんとにここでしていいの?」

続き。

「……っ」

が息を詰める気配。
そっと背中に指を滑らせる。背骨をなぞって腰に降ろしていく指を、きっとは追っている。

「しゅ……」

名前をかたどったそのくちびるが愛おしい。
かみつきたくなるほどに。



いいの?

「……っ、あ、の……」

少し負けず嫌いなが、本当は言い出せなくて困っていることも僕はわかってる。
でも、聞いてしまう。
困ってる顔がすごく好きなんだ。
ぐっとが手をにぎりしめて、僕を見つめた。

「あたしが、同じこと、思ってないと思うの?」

思いつめた顔。目のわずかに潤んだ顔。それは、それはまるで。
欲情。

「……、それ……」

かみつくようなキスは、がくれた。
僕がしたがっていたような、乱暴なほどに強いキス。
欲しい、とそれを叫ぶようなキス。
応える僕の身体の奥が暴れだす。

うん、わかってる。でもごめん。
ここじゃ、僕がいやなんだ。
大事な大事なは。
こんなとこじゃ僕のものにしたくない。
大事に大事に閉じ込めて。
ゆっくりやさしく僕のものにしたいんだ。
だからごめん。

、行こう」

今は、このキスで我慢して。
僕だって、が欲しいんだってわかってもらえるように。
のくちびるに優しくかみついた。

「周助?」

火照ったみたいに紅い頬を眺めて、自分の中の熱が燻っているのを確認する。

、好きだよ」

好きだって何度も何度も思ってるけど。
でもそれは。
毎日が僕を好きにならせてるせいなんだね。
僕は何度きみに恋をすればいいのかな。
いつだってきみは。
僕の思い通りにならないね。

 

−Fin−

 

後書き:水城澪様
相互記念夢で、WildKissenのおみち様に捧げます。
おみち様のみお持ち帰りOKです。煮るなり焼くなりしてやってください。
サイト名からプロットを考えたのですが、Kissenってドイツ語で枕なんだそうで。
でもどうしてもKissの字面が頭から離れず、裏にするわけにもいかず……。
折衷案的にちょい黒めの不二で荒々しいキスをモチーフにさせていただきました。
気に入っていただければ嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願い致します。

なんと!サイト名から!
WildKissenは直訳すると「野生の枕」です。完全な造語です(笑
吉平には言ってませんが、枕・kissで連想すると良い感じなのです。妄想膨らむ夢の世界←
「不二くん激甘」のリクエスト通りのお話で途中から床ローリング状態で読ませて頂きました。悶えました…
これからもよろしくお願い致します^^