「とうとう降り出しちゃった。」

 

あますじ

 

空が物思いにふける。

ぽつ、ぽつぽつ、ざざざ。

空が涙した。
今日は半ドンで楽しい放課後の筈なのに、空はご機嫌斜めらしい。
ロマンチストの会・会長、忍足によると「雨が降っとるときは空が恋しがってる」らしい。どこまで妄想癖がある人なんだ。
靴箱に上履きをしまい、周りと同じように傘を広げるつもりだった。
鞄の奥を探ってみるが、入れておいたはずの折りたたみ傘が無い。

「あ、玄関に置きっぱなしかも…」

仕方ない。すぐ止みそうだし、ちょっと待つか。
と思っていたら、後ろの方から同志がやってきた。

「激…ダサ…だぜ。」
「あー、もしかして宍戸も傘忘れたの?」
「亮って呼べ。ったく、何回言えばそう言うんだよ。」
「だって…亮よりも宍戸の方がしっくりくるから…あ、今言っちゃった。」
「はは、お前らしいぜ。」

いつの間にか、校舎からだんだん人がいなくなっていく。
白い雨筋はその数を増やし、景色を変化させる。
止みかけていた雨は、打って変わって一段と激しくなっていた。

「少し、寒くなってきたね。」
「そうだな。このまま帰るか…」
「えぇ、帰っちゃうの?!私を置いて?酷い、見損なった!」
「違うっての。傘の貸し出ししてるだろ。あれで帰ろうぜ。」
「じゃぁ、相合傘しよっ!」
「なっ!?2本借りればいいだろ。」
「体も心も冷え切りました。」
「しょうがねぇなぁ…今日だけだぞ?」

学校の傘をひとつ借りて、校門を後にした。2人にこの傘は小さすぎたようで、肩が少し濡れた。

「宍戸、狭い。」
「お前がするって言うからこうなったんだ!」
「宍戸、近い。」
「そりゃー、近いだろうな…今なら引き返せるぜ?」
「ヤダ。面倒だし。じゃぁさ、もうひとつやりたいことがあるんだけど。」

は突然、歩くのを止めた。物欲しそうな顔をして亮を凝視している。

「何をするんだ?」
「チューしたい。」
「んー…家に帰ってから、だな。」
「今がいい。」
「駄目だ。」

カリッ

は亮の首筋めがけて突進した。
衝撃で傘が斜めになり、雫があちらこちらにとんでいった。

「ってぇ!、やりやがったな!跡残るじゃねーか。」
「よし、満足した。さぁ帰ろ、亮!」
「お前なぁ〜…後で3倍にして返してやるから覚悟しとけよ。」

 

−Fin−

 

(2010/04/14)

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