今日一日幸せなら、それでいい。

 

ALL DAY LONG

 

「ねぇ、若。」
「なんだ?」

それまでの沈黙を破ったのはだった。
沈黙と一言にいっても、部屋で二人くつろいで過ごしていただけなので、そう呼べる感覚ではない。
日吉はこのゆったりとした時間が好きだ。休日の昼下がり、おなかがいっぱいになって身体を休めている時間。
雑誌を読み耽ったり、すっかりやることを忘れていた宿題にとりかかるを眺めたりと、自分が幸福であることを感じる時間。
は宿題をするペンを止め、日吉の方を向いた。

「今、何考えてるの?」
「いつになったらその宿題が終わるのか、だな。」

ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた日吉に、はため息をついた。
膨れっ面をしたところがまた可愛らしいのだが、それは直接述べることはない。
にはいじられるより、常にいじっていたいのだ。
24時間、喜怒哀楽の表情がコロコロ変わっていく様を見ているのは非常に楽しい。

「もう少しかかりそうなんだよね。応用問題だけ残しちゃってて…終わったらさ、映画見ようよ。ほら、若がオススメって言ってたやつ。」
「『怖いのはイヤ』って、散々言っていたのはお前だろ?」
「うっ…それは、そうなんだけど…」

クルリと向きを変えると、はまたペンを走らせ始めた。
部屋には雑誌をめくる音と、文字を書く音が響いている。
30分ほど経った頃、が背伸びをしたまま後ろの日吉にもたれ掛かった。
ベッドに腰掛けていた日吉との目線が交錯する。

「終わった〜!」
「じゃぁ、再生していいんだな?」
「いや、少しだけ、時間を、ください…」
「見たいんだろ?」
「ほら、心の準備をしてからじゃないと、ホラー映画は…ね?」

は身体を反転させ、ベッドの上に乗ってきた。
そのまま日吉の肩に顔を埋めると、その肩が動かないよう、全身でしがみついていた。

「さぁ、どんとこい。」
「心というより、身体の準備だな。」
「さぁ、ほら早く…!」

このまましがみ付かれているのも悪くはない。
だが、肝心の表情が見られないのは少々面白みに欠ける。日吉はその機会をじっくりと待った。
映画の一番初めに盛り上がる、お化けの初登場シーン。
出てくる3秒前、凍り付いて動かないの身体をグイッと自身の身体の正面に持ってきてやった。
刹那、とお化けがご対面。

「キャー!」
「おっと。」

目を固く閉じ、テレビ画面から顔を背けたは日吉に飛びついた。

「馬鹿、若のバカ…」
「どうするんだ、まだ見るか?」
「見る…」

依然としてしがみついたまま、少しだけテレビの方に目をやった。
怖がるを見つめながら、日吉は嬉々として映画を楽しむのであった。

 

−Fin−

 

(2015/11/15)