チャイムが鳴ると必ず現れる。

 

憧れタイム

 

鳴るのが早いか、立ち上がるのが早いか、桃城武は教室を出て、一番近い階段をダッシュで駆け下りた。
4限終わりの合図は昼食の合図。購買部の食材を逃がすわけにはいかない。
このコーナーを曲がれば購買部、あと2,3歩で曲がり角という所で障害物が現れた。

「うおっ、あぶねぇ!」
「え…?ひゃっ」

桃城は当たりそうになった腕を上げ、女の子は反射的にしゃがんだ。
危うく、すれ違いざまの事故になるところだった。

「大丈夫か!?」

女の子は驚きのあまり声も出ずに固まっていた。
伸ばされた手を掴むと、グンと力強く引き上げられた。

「わりぃな。…おぉっと、こうしてる場合じゃねぇ。俺の昼飯〜!」

言い終わるよりも足が出ていた。走る勢いで、髪をなびかせる風が後からそよいだ。
まだ誰もいない廊下を駆け抜ける音だけが響いている。

「ビックリした〜…」

は家から持参した校内図を広げると、職員室を目指し歩を進めた。



「せっかくだから、部活も見学したらどうだい?」

面談を終えると、は先生の勧めに従い、部活を見て回ることにした。
授業は明日からだ。少しだけ寄り道してから帰るのも悪くない。
校舎を出ると、女子生徒が数人駆けていくのが見えた。
なにかあるのかな?
後をついて行くと、フェンスの周りを大勢の生徒が囲っていた。
中では、軽快なボールの打球音が響いている。
人垣の隙間から覗いてみると、青いユニフォームを着た部員がテニスをしていた。

「あれは…」

さきほど見かけた”腹ぺこくん”が縦横無尽にコートを駆けている。

「出るぞ!桃城の弾丸サーブ!」

パワフルなサーブが相手コートに突き刺さる。
捲り上げられたジャージから見える腕の筋肉があれば、今の威力くらい余裕だろう。
それに、力強いのは”この手で”確認済みである。
こんなに毎日動いているのなら、食べたいのも頷ける。
先程の出来事を微笑ましく思いながら、は学校を後にした。



翌日、担任に連れられて辿り着いた教室は2年8組だ。
昨日来ているといえど、初めましては緊張する。
人の字を書いて飲み込むと、深く深呼吸した。少しだけ鼓動が落ち着く。
扉が担任の手によって開けられ、クラス全員の視線が自分一点に集中する。

「みなさん、本日から転校してきたさんです。」
です。よろしくお願いします。」

あー!という桃城の騒々しい驚きの声が教室に響いた。
の心臓がその声に激しく鼓動した。

 

−Fin−

 

(2016/11/08)