チャイムが鳴ると必ず現れる。
憧れタイム
鳴るのが早いか、立ち上がるのが早いか、桃城武は教室を出て、一番近い階段をダッシュで駆け下りた。
4限終わりの合図は昼食の合図。購買部の食材を逃がすわけにはいかない。
このコーナーを曲がれば購買部、あと2,3歩で曲がり角という所で障害物が現れた。
「うおっ、あぶねぇ!」
「え…?ひゃっ」
桃城は当たりそうになった腕を上げ、女の子は反射的にしゃがんだ。
危うく、すれ違いざまの事故になるところだった。
「大丈夫か!?」
女の子は驚きのあまり声も出ずに固まっていた。
伸ばされた手を掴むと、グンと力強く引き上げられた。
「わりぃな。…おぉっと、こうしてる場合じゃねぇ。俺の昼飯〜!」
言い終わるよりも足が出ていた。走る勢いで、髪をなびかせる風が後からそよいだ。
まだ誰もいない廊下を駆け抜ける音だけが響いている。
「ビックリした〜…」
は家から持参した校内図を広げると、職員室を目指し歩を進めた。
*
「せっかくだから、部活も見学したらどうだい?」
面談を終えると、は先生の勧めに従い、部活を見て回ることにした。
授業は明日からだ。少しだけ寄り道してから帰るのも悪くない。
校舎を出ると、女子生徒が数人駆けていくのが見えた。
なにかあるのかな?
後をついて行くと、フェンスの周りを大勢の生徒が囲っていた。
中では、軽快なボールの打球音が響いている。
人垣の隙間から覗いてみると、青いユニフォームを着た部員がテニスをしていた。
「あれは…」
さきほど見かけた”腹ぺこくん”が縦横無尽にコートを駆けている。
「出るぞ!桃城の弾丸サーブ!」
パワフルなサーブが相手コートに突き刺さる。
捲り上げられたジャージから見える腕の筋肉があれば、今の威力くらい余裕だろう。
それに、力強いのは”この手で”確認済みである。
こんなに毎日動いているのなら、食べたいのも頷ける。
先程の出来事を微笑ましく思いながら、は学校を後にした。
*
翌日、担任に連れられて辿り着いた教室は2年8組だ。
昨日来ているといえど、初めましては緊張する。
人の字を書いて飲み込むと、深く深呼吸した。少しだけ鼓動が落ち着く。
扉が担任の手によって開けられ、クラス全員の視線が自分一点に集中する。
「みなさん、本日から転校してきたさんです。」
「です。よろしくお願いします。」
あー!という桃城の騒々しい驚きの声が教室に響いた。
の心臓がその声に激しく鼓動した。
−Fin−
(2016/11/08)