部活が10分早く終わった。今日こそ…今日こそ一人で!
Nachbar
「やぁ、今日は早いんだね。」
「なんでいるのよー!テニス部は部活6時まででしょ?」
「水曜日は自主練なんだ。さぁ、一緒に帰ろ?」
全力のダッシュもむなしく、絶対会いたくない奴に出会ってしまった。
幸村は手をさしのべる。誰が掴むか。
その横を通り過ぎ、さっさと学校の外へ出る。
こいつのせいですっかり早足に慣れてしまった。その後ろを同じ速度で幸村はついてくる。
「どうしたんだい?」
「ついてこないで。」
「いつものことじゃない。もしかして怒ってる?」
さらに加速する。競歩、いや、もはやこれは走っている。
「ねぇ、」
何も聞こえない。何も知らない。ただ家に帰るだけ。
「ねぇ、!」
左手に違和感。
「やっ」
恋人つなぎになった手を懸命にふりほどこうとするが、幸村は笑顔のまま離そうとしない。
「一時間でいいからこのままでいてくれるかな。」
「…っ誰が!」
皮肉なことに、幸村とは帰りの電車が一緒なのである。
ここで逃れたとしても、再びやってくるのは目に見えている。
「あー…調子狂うなぁ…」
はあきらめてこのまま帰ることにした。
「でも5分だけね。5分たったら離せ。」
「はいはい。」
嬉しげな顔をすると、幸村はのおでこにキスを落とした。まさに不意打ちだ。
「んぁー、もう!幸村のバカ!」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔になったかと思うと、次の瞬間にはほっぺたがふくれる。
幸村はの流転する表情をみながら、薄暗い帰り道を楽しむのだった。
−Fin−
(2008/05/21)