仕事帰りに、ウインドウショッピングでもして帰るかなと思い、ふらり。

 

Misinterpretation

 

駅前はいつもより少し賑やかだ。お店の中は人が多く、溢れかえっている。
人と人がぶつかり合いそうな、その間をすり抜けていくといつもの駅にたどり着く。
早めに仕事が終わったからもう少し時間があるし、慌てて帰る必要はない…周助が家で待っているけれど。
たまには何か買って帰ろうか。

「…あれ?」

ぶらついていると目に入ったアクセサリーショップ。
茶色い髪の男性が店内にいた。後ろ姿が周助によく似ている。
でも今日はお休みだから一日中家にいるって言っていたし…人違いかな。
帰宅後の土産話にでも取っておこう、そう思ったときだった。
男性が横を向いた。

間違いなく周助だった。

側には店員らしき女性ともう一人、女性がいた。
女性の顔は見えないが、仲睦まじそうに会話をしているようだ。
周助はネックレスをその女性にあわせて選んでいる。

(まさか、周助が…浮気?)

今まであり得ないと思っていた。思い込んでいただけかもしれない。
付き合い始めた当初は周助の人気ぶりに不安なこともあった。
そんなタイプに見えないから安心していた?
長年の生活で慣れてしまっていただけなのだろうか。
の中で浮気疑惑が浮上した刹那、店内の周助と視線が交錯した。

「あ…」

まずい。自分の身体が硬直しているのがわかる。
周助が手に持っていたアクセサリーを置いて、こっちに来る。
は震えて動かない足に力を入れて目一杯、駅の方へと走った。
ガクガクと膝が笑い、蹴り飛ばす地面が柔らかい豆腐のように感じる。
名前が聞こえる気がするが、気にしてはいられない。
無心になってとにかく駅まで、電車まで。
ヒールで坂道を走り抜け、改札口を通り、更に階段を駆け上がる。
タイミングよく、すでに到着していた車両へ飛び乗った。
運良く自分の家へ向かう電車だった。

(セーフ…)

ホッとしたのもつかの間、気が少しだけ緩んだときに思った。
このまま家に帰っていいものか。
二人で同居している為、まっすぐ家に帰ればそのうち周助が帰ってくる。
…いや、帰ってこないかもしれない。

(本当に浮気なら、浮気相手と本気なら…)

力のない足を引きずって、は玄関口に倒れ込んだ。
もう何もする気力もない。中に入る力さえ出ない。
は目を閉じた。
どうにでもなれ、私は疲れた。



「…!」

身体が揺り動かされ、睡眠を邪魔された。
変な体勢で眠り込んでしまったせいか、身体中が痛い。

「ふわぁ」
「よかった、気がついたんだね。鍵が開いていて、玄関で倒れているから心配したよ。眠っていただけかな。」
「あ、周助…」

寝ぼけている場合じゃない。両頬を叩いて眠気を吹き飛ばすと、核心に迫った。

「さっき、お店で女の人と何してたの?」
「あぁ、いきなりが走って行っちゃうから話せなかったけど、大事な話があるんだ。中に入ってからでもいいかな。」
「今すぐ答えて。あの人は誰?もしかして周助…浮気してるの?」
「…クスッ」

浮気を言葉にした途端、周助はお腹を抱えて笑い出した。

「な、何がおかしいのよ!」
がすごく可愛いから…僕がしゃべっていたのは店員さんだよ。」
「だって、ネックレスあてたりして…」
「大きさとか、どんな服に合うか相談してただけ。フフッ。、妬いてくれたんだ?」
「うっ…」

今までのことが急に恥ずかしくなってきた。
偉い偉い、と周助は笑いながら頭を撫でてきた。

、ひとつ聞いてもらえないかな。」
「ん?」
「左手、出してみて。」
「あ…」

ポケットから取り出されたのは、小さな箱。
中身は綺麗なダイヤモンドが入った指輪だった。

、僕と結婚してくれる?」
「これを買うために…」
「本当は、切り出すのをもう少し後にしようかって悩んでたんだ。でも、君がお店の前にいて逃げちゃっただろ?
 今日言わなきゃって決心がついたから指輪にしたんだ。それで、返事、聞かせてくれる?」
「もちろん、喜んで。」

の目にはうっすら涙が浮かんでいた。疑っていた自分が恥ずかしい。
周助の胸に飛び込むと、は深く息を吸い込んだ。

「ありがとう、周助。」

 

−Fin−

 

(2012/02/27)