「いらっしゃい、ちゃん。」

 

Masquerade

 

由美子さんから家に来てほしいと電話が合あった。
ラズベリーパイを教えてもらうのは来週の予定だし、一体何の用事だろう。

「こんにちは。」
「ごめんね、急に呼び出して。」
「いえ、予定もなかったんで大丈夫です。」
「良かったわ。さ、中に入って。」

家には由美子さん一人だった。
お義母さんはお出かけ中、周助はカメラを持って散歩に出かけたらしい。
何があるのかワクワクしながら、は由美子さんのお部屋まで案内された。

「部屋の整理をしてたら、昔着ていた服が出てきたの。周助が『に着せろ、着せろ』って言うもんだから…」
「周助が、ですか?」
「私とちゃん、ちょうど服のサイズも一緒でしょ?それで、着たら絶対似合うからってきかないのよ。この服なんだけど…」

黒く、テカテカとした素材の服だった。

(…ドレス?)

たたまれていた服を広げると、袖も襟も裾もなかった。

「こ、これ、バニーじゃないですか!?」
「そうなの。お祭りで仮装パーティーをやったときに一回だけ着たの。ちゃん、着てみてもらえるかしら?」
「い、今ですか!?」
「ほら、ちゃんと網タイツもあるわよ。」

由美子さんはニコニコしながらが着替える準備をしていた。
ちょっと着てみたい気もするが、由美子さんの方が明らかに細いし…
チラッと由美子さんを見ると、携帯の画面を見て、まぁ、と声をあげた。

「ほら、ちゃん、早く着替えないと!周助が帰ってきちゃうわ!」
「えぇ!?」

この姉にして、あの弟ありと言うべきか。
あの弟にして、この姉ありと言うべきか。
姉弟に遊ばれてる状況を把握したはやけくそになった。

(どうにでもなれ!)




(何で着ちゃったんだろう…)

服は破れることなく無事に着れたものの、由美子さんが化粧道具やら、ウサギの耳やらを 取り出してきた為に、完璧なバニーに変身してしまった。
こうなることは分かっていたものの、まるでおもちゃだ。
はぁ、と一息ついたところで、周助が帰ってきた。

「姉さんただい…!?その服着てくれたんだ。嬉しいなぁ。」

着せようと企んだのは誰ですか。そんなにジロジロ見ないでよ、恥ずかしい。
何も言わずにもじもじしていると、周助は持っていたカメラをに向けた。

「いやぁぁぁ!それだけはやめてぇぇぇ!」

はバニー姿になったことを激しく後悔した。

 

−Fin−

 

(2011/05/17)