飾られた甘い香りが教室に居座るから嫌いです。

 

CHOCOLATE

 

この香り、例年そうだけど、どうにもいけ好かない。
先生達も、とっくに気付いてるのなら、早く没収してしまえばいいと思う。
毎年毎年、注意の一つしてくれやしない。
今日は最悪。2月14日なんて、無い方がましだ。
朝からのことだ。クラスに入ると、既に何十個とチョコやクッキーが集まっている。
ここは6組。ある二人の机の周りには、それらが詰まった紙袋がたくさんあって、まるで正月の福袋が販売している最中かのようだ。
教室にはいるまでも随分と苦労したが、さらに苦労している奴がいる。元凶、不二だ。
もう一人の菊丸も苦労しているようだが、あいつはあれで楽しんでいるらしい。

【山ほどもあるチョコ、何処の誰がそんなに嬉しがって食べる?】

私はそうやって言い聞かせないと、今にも涙が出そうだ。
そうでもしなければ、頭が炸裂しそうだ。
ほかのことを考えなければ、心臓を奪われそうだ。
とにかく、耳を塞いで、目を閉じて、じっと事が終わるまで、顔を伏せていなければ死にそうに辛いのだ。
誰がそんなに好んで、平気で、見て入れるものか。

「はぁ…。やっと入れた。、おはよう。」
【やめて】
「…?どうしたの?」
【やめてくれ】
「ねぇ、…?」
【もう、我慢できない…】
「黙ってよ!ほっといて!」
「…。」

そう叫ぶと、頭から熱湯を被ったように熱い怒りの電流が、全身を走り抜いた。
机に伏せている顔に近づけようとする彼の手を叩いた。

「周助はそうやってチヤホヤされてる方がよっぽどお似合いよ!」
、僕はそんなこと、一度も好んでるって言ってないよ。」
「わからない?さっきみたいに大勢の女子に囲まれてる光景を見るのがどれだけ悲しくなるのか、想像したことある?」
「…僕だって考えたことぐらいあるよ。付き合う前から君は、色んな人に告白されて、その度に僕は不安になったよ。
いつ君が奪われてしまうのか、告白されてる所なんて、見たくもなかった。」
「そんな、一対一っていうものじゃないでしょ!もっと大勢に囲まれていて、自分が蟻みたいに小さく思えて、入り込むところなんてないんだよ?」

が周助の顔を見た。その一瞬…の表情が崩れた。
自然と零れ出た滴は、周助の心に深く染み込んだ。
周助は無意識のうちに、抱きしめていた。
何か大切なものをとても深く痛めつけてしまったような気がする。
何故、こうも見栄を張ってしまうのだろう。
何故、傷つけてしまうものが大きいことに気がつけないのだろう。
そう思うと、周助の目の中は熱くなった。

「…っ。」
「しゅ…すけ…。」
「ごめん、ごめんね。」
「周助…泣いてる。」

そう言っては親指で、頬に零れていた周助の涙を拭き取った。
何故かそれは無性に優しく感じで。涙はとどまるところを知らなかった。

だって、泣いてるじゃない。」

周助は泣きながら、がやったように優しく涙を拭き取ってあげた。
そして、優しくキスを交わすとこう言った。

「もうこの日だけは涙を流せない日にするから、ね。」

 

−Fin−

 

(2012/10/08)