Breathe words of love

 

些細なことで喧嘩をした。
と言うよりも、仁王が一方的に怒っているのだが。
私が話しかけたとき、なにやら機嫌が悪かったみたいだ。

「消えろ、どっか行け!」

そう言われてしまったのだ。
なにがそんなにも彼の機嫌を悪くしたのだろうか。
テニス部で何かあったのだろうか…
それとも、自分に飽きてしまたのだろうか。
心配でしょうがなかった。
仁王とは入学式の日に初めて会って一目惚れして、2年で一緒のクラスになって仲良くなり、3年の初めに告白をした。

「…仁王君、ずっと好きでした!つき合って下さい!!!」

顔を見て言うことが出来なかった。
それでも、今まで思っていた気持ちを全部吐き出した。

「いいぜよ。付き合っても。」

顔をあげるとにやりと笑った仁王がこちらを見ていた。
綺麗な銀色の髪を夕日色に染めながら、私の頬に手をやりキスをした。
そして、手を繋ぎ屋上を後にした。
ファーストキスだった。
嬉しかった。涙が出るかと思ったくらい、嬉しかった。
でも、彼の返事はつき合ってもいいと言ってくれただけで、私のことを好きかどうかはわからなかった。
それでも一緒にいてくれるなら良かった。

仁王に拒絶されて一週間がたった。
相変わらず話しかけても怒鳴られるだけで何の進展もなかった。

「お前、仁王と何かあったの?」

不意にブン太に話しかけられた。体中に甘い匂いを漂わせながら近寄ってきた。

「わかんない…話しかけてもちゃんと返事してくれないし。」
「あいつさ、最近荒れてるんだよ。プレーにも影響が出てるしな。」

保護者代わりのジャッカルが心配そうに言ってきた。

「なぁ、そこまでされて腹立たねぇ?」

頭を掻きながら呆れ気味にブン太が聞いてきた。
ジャッカルも、先程から眉毛を八の字にさせながら私を見ている。
周りの生徒の笑い声がうるさいくらい耳に響いていた。

「そうは思わないよ。逆に、飽きられたかなぁとは思うけど…もしそうだとしても私は仁王君のことが好きだから。」

そう、好きなのだ。仁王のことが。
初めて会ったときよりも彼のことが好き。
昨日よりも今日の彼が好き。
1分前の、1秒前の彼よりも今の彼が好き。
毎日私は彼に恋してる。
だから、決してあきらめない。
しつこいと言われても、話しかけてやるのだ。

「だってよ。聞いてた?仁王。」

と別れて、角で隠れていた仁王にブン太が話しかけた。

「聞いとったよ。知っとって聞いたんじゃろ?」

はぁ…とため息をつきながら仁王はその場にしゃがみ込んだ。
さらに髪をクシャクシャにしながら俯いて誰も聞き取れないような小さな声で「良かった…」と、呟いた。

がお前にベタ惚れだっての、何で気付かないわけ?」

余計なこと言うな!とジャッカルに頭を殴られながらもブン太が偉そうに言った。
鼻で笑うように言うので仁王は怒ったのか、急に立ち上がった。

「な、なんだよ…」

何とも言えない、今までと違った雰囲気が仁王の周りに漂っていた。
怒ったのか?ブン太は不安そうに仁王を見た。
ジャッカルに軽く殴られた頭を撫でながら。

「ちょっと授業サボるから、後はよろしゅうな。」

そう言って走り去ろうとするのでジャッカルが慌てて叫んだ。

「何で好きだって言ってやらねぇんだ。そんなに不満になるくせに。」

すると、仁王は一瞬驚いた顔をしたのだが、少し子供っぽく答えた。

「そんなん、恥ずかしいからに決まっとるじゃろ!!」

あの男にも羞恥心なんてものがあったのか、と不謹慎ながらも思ったのであった。
5限目の始まるチャイムがなる。
でも、は授業を受ける気がしなくて屋上に一人ポツンと立っていた。

「好き、好き、大好き。でも…何だかなぁ…」

私が無意識のうちに何かしてしまったのだろうか。
ガチャッとドアの開く音がした。
先生だったらやばい…っ!
隠れるところがないので仕方なくその場にしゃがみ込んでみた。
しかし、予想していたものとは違ったのだ。
何か暖かいものが私を包み込んだ。

「…ごめん。」

聞き覚えのある声だった。
抱きしめている人物は、仁王だ。
走ってきたのだろう、息が荒くなっている。
私を抱きしめたまま再び喋りだした。

「その、俺が怒ってたんはな、お前さんが他の男と楽しそうにわらっとる姿見とったらイライラしてのう、八つ当たりしてもうたんじゃ。」

は即座に返事が出来ず、暫く沈黙が続いた。
カキーンと、ボールを打つ音が聞こえる。
野球か、それともソフトボールか定かではないが、体育をしているクラスがいるということだけはわかった。
屋上にいても聞こえるくらい声が響いている。
キャーッと言う声も聞こえた。
そんな声を発するスポーツだったかと、頭の片隅で思いながら返事をしなくてはと思い、は口を開こうとした。
その瞬間、の頭にボコッと鈍い音が聞こえた。

「…っ、い、痛い。痛いよぉ…」

頭をさすりながら、あまりの痛みに泣きそうになった。
その姿を見て、仁王は大声を出して笑った。

「あははは…っ」

何も腹を抱えて笑わなくてもいいのに…と、頬を膨らませていると仁王の手が伸びてきた。
頭を何度も、何度も撫でてくれた。
まだ痛いはずなのに、痛みなど吹っ飛んでしまった。

「ごめんな。俺、独占欲強いからの、縛り付けたくなかったんじゃよ。」

いつになく真剣な顔で、見つめてくる瞳は髪と同じ色の綺麗な銀色。
その瞳に、いつも吸い込まれそうになる。

、好いとーよ。だから、俺以外の男に笑いかけんでくれ。」

初めて言われた『好き』という言葉。
嬉しくて感動のあまり涙が零れた。
色々思うことはあるけれど、全てどこかへ消え去ってしまった。

「うん。私も好いとーよ。」
「真似すんな!」

そう言って再び私を抱きしめてくれた彼に、今度は私も腕を背中に回した。

 

−Fin−

 

(2007/11/18)