こんなに騒いでいるところは久しぶりかも。

 

10seconds

 

今は四天宝寺中テニス部全国大会準優勝祝いの集まり、いわゆる打ち上げが学校近くの寮で行われている真っ最中。
飲めや食えやのどんちゃん騒ぎ…といってもソフトドリンクしかテーブルには並んでいないが。
漫才が面白くなければ、先輩後輩関係無しに座布団が壇上に飛んでくる。
そんな中、私の彼は包帯で一年生を制止ながら眉間に皺を寄せていた。
サポート係の私はあの輪に入っていけない。部員が食い散らかしたものを片付けていくだけで手一杯だ。
先程から何往復もする部屋の熱狂、廊下の冷ややかな空気、そして厨房の熱気が交互にやってきて、汗の感覚が冴え渡る。

(皿の枚数多すぎない?!)

洗い場の横には大小様々な大きさの食器がズラリと縦に並んでいる。映画にでも出てきそう。
後片付けのサポートを私1人にしたの誰だっけ?…部長だよ!
後で絶対文句言ってやるんだから。
濃い洗剤を薄めるところから始め、スポンジでゴシゴシ洗っていく。
食事は成長期の少年のために脂っこいものばかり並んでいたので、なかなか汚れが落ちてくれない。
雑に皿を扱っていると、横で皿同士が擦れあう音がした。
気づいたときには皿のベクトルが同一の向きを指していた。焦りで体温が瞬時にヒュッと下がる。

「先輩、危ないっすわ。」

床に落ちそうだった皿のタワーをタイミング良く光が支えてくれた。

「あぁ〜、ホンマに助かった。」
「手伝いますわ。」
「えっと、お皿拭いてくれる?」

白いタオルを渡して、皿洗いを再開した。
光はテキパキこなしてくれて、一つ用事の少なくなった私にもペースが生まれてきた。
皿のしぶとい汚れと格闘していると、あることに気づいた。

「光、大広間にいなくてよかったん?私は助かるけど、祝いの席なのに…」
「先輩らが騒いで五月蝿すぎるから、こっちに逃げとるだけ。」
「あ、そう。じゃぁ、早く洗って仕事終わらせないとね。」
「皿洗いと同じくらい白石部長との付き合い、早く終わります?」
「はっ…!?」

なにを言い出すんだこの子は。数秒、思考が止まって、手から皿が滑り落ちそうになった。

「部長について行っても無駄無駄って言われて疲れるだけや〜言うてたし、〇先輩、俺と付き合いません?」
「か、考えとく。」

ぎこちないリズムを纏ったまま、皿洗いの夜は更けていく。

 

−Fin−

 

(2009/10/18)